─連載 No.4
ないしょのつぶやき
本間 郁子
特別養護老人ホームに暮らすお年寄りの心のうち
「いま、一番欲しいのは話し相手。同世代の人と話せれば本当にいいなあと思う」
前回お話したYさんと同じ特養ホームで暮らす六七歳のMさん(男性)は、五四歳の時、自宅で不注意から思いがけない大事故になり、首から下が全く動かなくなるという重度の障害を負ってしまった。一年四ケ月の病院生活のあとは自宅に戻ったが、リハビリのために四年間の入退院をくり返していた。自宅にいる時は、ヘルパーも来ていたが週にニ回で時間も短く、妻一人で介護の負担は多くなった。時々ショートステイを利用しながら何とかやって来たものの、今度は妻に乳ガンが見つかり手術することになった。手術や手術後の通院などを考えると自宅で暮らすことは限界があると思い、特養ホームに入居することを決心したという。
私が、Mさんの部屋を訪ねたとき、Mさんは横になったままベッドの手すりに取り付けられた本台を使って読書中だった。かすかに動く手首に棒を結びつけ、本のページを器用にめくっている。視線が合うとすぐに「本間さんですか」と声をかけてきた。
「そうです。おはようございます。今日はどうぞよろしくお願いします」と応えると、笑顔で「どうぞ」と椅子をすすめてくれた。
Mさんは、障害を負った時から今日までのことを、さまざまな思いを噛みしめるように話してくれた。
特養ホームに入れて本当にホッとしたが、生活に慣れてくると、プライバシーのない四人部屋がいかに大変かということを思い知らされたという。
何かと気を使うことが多く、家族がせっかく会いに来てくれても、帰った後で同室の人からイヤみをいわれたりするし、耳が聞こえない人でも人が来ているというだけでうるさいといわれるという。個室の方がいいですかと聞くと、「個室は確かに理想だが、寮母の数が今のままだと不安なこともある。私のように一人で身動きもままならない状態だと、隣に誰かいてくれると、何かあった時にすぐ寮母に連絡してくれるので安心かなと思う。ただ、同じ部屋の人がいい人ならですけどね」とつけ加えた。
食事に関しては「栄養のバランスは考えられていると思うが、いわゆる老人食で魚や豆腐ばかりが多く野菜も柔らかすぎて歯ごたえもない。いつももの足りない思いをする。たまには、おいしいものが食べたいね」と目を細めて話す。