0.05)と有意な相関係数が得られたと報告されている3)。本研究でも同様に男女合わせて脚筋力と全身反応時間との関係をみるとr=-0.4013(p<0.01)という相関係数が得られた。このことは70歳以上の高齢者では脚筋力の低下が全身反応時間の遅延のひとつの要因であることを示している。一般に筋力測定項目のうち上肢の筋力にくらべて下肢の筋力の方が加齢により著しく低下することが知られている9)。Aanianssonら2)は、同一人を対象として70歳時と77歳時に同一筋力測定を実施し、加齢による筋力の変化を調べた。彼等は膝角度60°の静的筋力および毎秒30°、60°および180°での等速性膝伸展筋力を測定し、すべての測定値が有意に低下したと報告している。さらに、脚の筋生検を行い、その筋力低下は主としてタイプ?U線維の選択的な萎縮であると結論した。先述したように脚筋力は平衡性や全身反応時間に大きな影響を及ぼしていることになる。
これまで、健康に関する体力要素の中で全身持久力の指標となる最大酸素摂取量は虚血性心疾患の発症、生活習慣病の発症と深い関係があることが知られている1,6,7,12)。
そこで、本研究の被験者の最大酸素摂取量と血液生化学的指標との関係を検討した。最大酸素摂取量と脂質代謝の指標(総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)とは、単相関でみるかぎり有意な相関関係を得ることができなかった。また、糖代謝の指標(血糖、ヘモグロビンA1C)や他の生化学的指標との間にも有意な相関関係は認められなかった。これはこれまでわれわれが示した結果と同様であった10)。そこで、体力水準を最大酸素摂取量でみずに、1日の歩行数を活動水準として捉え、男女合わせて血液生化学的指標との関係を検討した。その結果、1日の歩行数と総コレステロールとはr=-0.3215(p<0.05)、HDLコレステロールとはr=0.3011(p<0.05)、中性脂肪とはr=-0.2989(p<0.05)と相関係数は低いが有意な相関関係が得られた。しかし、糖代謝の指標との間には有意な相関は認められなかった。本研究では、最大酸素摂取量と血清脂質との間には有意な相関は得られなかったが、1日の平均歩数との間に有意な相関が得られた。このことは間接法での最大酸素摂取量の推定には限界があることを示している。高齢者の場合には、平均歩数のような日常生活での活動水準を表わすような指標が望ましいように思われる。
要約
1. 日常生活で歩行運動を実施している65歳以上の男性21名、女性41名を対象に体力テストと血液生化学的検査を実施した。
2. 体力テストのうち長座体前屈と閉眼片足立ちの値は男性よりも女性の方が優れた値であった。
3. 男女合わせて脚筋力と閉眼片足立ちとはr=0.3811(p<0.01)、全身反応時間とはr=-0.4013(p<0.01)という有意な相関係数が得られた。
4. 総コレステロールとHDLコレステロールは女性の方が高い値であり、反対に中性脂肪は男性の方が高値であった。
5. 最大酸素摂取量と血清脂質とは有意な関係は認められなかったが、1日の平均歩数と総コレステロールとはr=-0.3215(p<0.05)、HDLコレステロールとはr=0.3011(p<0.05)、中性脂肪とはr=-0.2989(p<0.05)と有意な相関関係がみられた。
文献
1) American Heart Association. Committee on Exercise:Exercise testing and training of apparently health individuals:A handbook for physician:American Heart Association:Dallas, 1972.
2) Aniansson,A.et al.:Muscle morphology, enzymatic activity, and muscle strength in elderly men:A follow-up study. Muscle & Nerve 9:585-591, 1986.
3) 青木純一郎たち:高齢者の反応時間。体育科学、 19: 67-72, 1991.
4) Astrand,P.O,and I.Rhyming:A nomogram for calculation of aerobic capacity (physical fitness)from pulse rate during submaximal work. J. Appl. Physiol.,7:218-221, 1954.
5) Brozek.J.et al.:Densitometric analysis of