て女性の方が有意に高い値であった(p<0.001)。タッピングと全身反応時間に関しては、性差はみられずこれまで報告されている同年代の値14)とほぼ等しかった。また、推定の最大酸素摂取量についても同年代で報告されている値10)と等しかった。血液生化学的検査結果を表3に示した。総コレステロールは男性に比べて女性の方が高い傾向にあった。60歳以上の女性の総コレステロールが正常値の上限(210mg/dl)を越えるという結果はこれまでの報告と一致する10)。同様に、HDLコレステロールも女性の方が高かった。反対に、中性脂肪は男性の方が高かったが、男女とも標準偏差が大きかった。血糖およびヘモグロビンA1Cの値は、男女とも等しくこれまでの報告とほぼ等しかった10)。尿酸は、従来からいわれている通り、性差が見られ平均年齢が70歳以上でも男性の方が高い値であった。
考察
本研究で用いた65歳以上の被験者たちは、形態、安静時血圧および負荷心電図から健常な高齢者であった。彼等は、1日に約1〜2時間程度の歩行運動を週5日以上実施している人達であった。高齢者の体力面での特徴は、静的状態時にくらべ動的状態時の機能低下が著しく13)、日常生活での物事に対応するスピードが遅い15)ことである。
これまでわれわれは20代から70歳代の人を対象に種々の体力項目の加齢による変化を調べてきた10)。その結果、脚筋力は男性の場合70歳代では20歳代の約45%、女性の場合には約30%低下することが報告されている。本研究の男性の脚筋力は平均21.5kgであり、従来の60歳代の平均に相当する。一方、女性では平均17.0kgと50代の平均値に相当し、20代にくらべ約8%の低下にしかすぎなかった。このように本被験者の場合、女性の方が脚筋力が相対的に高い水準に維持されていた。これは女性の方が一日の歩数が男性にくらべてやや多かったことが原因とも考えられる。しかし、1日の歩数と脚筋力との間には男女とも有意な相関関係は認められなかった。吉武16)によれば、日常運動習慣のない高齢者ではトレーニングにより身体活動量が増加すると、その身体活動量と脚筋力との間に相関関係が認められるが、身体活動の高い水準の高齢者では両者の間に相関関係が認められないことを示した。本研究の被験者も日常生活で過去1年以上にわたり1日平均10000歩以上歩行を行っていたので、両者の間に相関関係が認められなかったものと思われる。
また、柔軟性の指標である長座体前屈は0.1%水準で女性の方が優れていた。柔軟性は骨格の解剖学的要因と筋・腱の柔軟性という2つの要因で決まる。本被験者は男女とも日常生活で歩行運動を実施していたので、男性と女性の違いは前者の要因によるものと思われる。さらに、平衡性の指標である閉眼片足立ちの値も0.1%水準で女性の方が優れていた。男性の値はこれまで報告されている値とほぼ等しかったが、女性の平均15.2秒は男性の3倍強に相当する。
一般に老化に伴う機能の変化は、動作が動的か静的かだけでなく、その機能が複雑であればあるほど著しく低下する9)。例えば、この閉眼片足立ちの能力は、40歳ころから急速に低下しはじめ、70歳では20歳の約80%まで低下するといわれている9)。しかし、本被験者の場合男性ではこれにあてはまるが、女性の平均15.2秒はこれまで報告されている20歳代の値の約40%の値に相当し比較的高い水準を維持していた。閉眼片足立ちの能力を決定する要因は、平衡能をつかさどる小脳の働きと、体重を保持する脚筋力あるいは筋紡錘、前庭迷路機能などがある。本研究の女性の脚筋力は、相対的にみて男性よりも加齢の影響が少ない。このことが閉眼片足立ちの違いを生みだしたひとつの要因と思われる。男女合わせて、脚筋力と閉眼片足立ちとの間の相関をみると、r=0.3811(p<0.01)の有意な相関係数が得られた。このことは70歳以上の高齢者において脚筋力の強化によりバランス能の保持、あるいは転倒等の予防に有効であることを示しているものと思われる。また、全身反応時間は男性の方がやや短かったが有意差はみられなかった。これまで、脚筋力と全身反応時間との間には60歳代では有意な相関はみられなかったが、70歳代になるとr=-0.5630(p<