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力の評価は浅井と藤原1,6)によって、振幅が足長の30〜70%、周波数0.025Hzで試行されている。それによると、視標の位置とCFP中心位置との絶対誤差は後方移動時ほど大きく、また若年者より高齢者の方が大きかったことが示されている。が、本研究では後方移動時の差は一部を除いてはあまり顕著ではなかった(図3,4)。振幅の差異もさることながら、おそらく、用いた周波数による影響が大きいのではないかと思われるが、この点に関しては上記同様さらに検討する必要があろう。

現時点で言えることは、視標追従という方法によって動的な姿勢調節能力を評価することは可能であるが、採用する周波数と振幅によっては測定誤差がかなり大きくなることが予想されることから、それらの選定には十分な注意が必要であるということである。また、この調節過程には予測的制御が強く関わっていると思われ、評価の際にはその点にも十分留意するべきであると思われる。

 

2)動的姿勢調節能力と他の体力測定項目との関連

筆者らは前々報において、静的姿勢調節能力の指標としたCFP動揺と脚伸展パワー、歩行能力が年齢と高い相関を示すと同時に、お互いに密接に関連し合っており、体力の加齢変化を評価する有用な指標であることを報告した7)

しかしながら、本研究では静的状態でのCFP動揺と年齢、左右各脚の最大等尺性膝関節伸展筋力との間には有意な相関は認められなかった。また、動的姿勢調節能力の指標としたTL,MLと左右各脚の最大等尺性膝関節伸展筋力との間にも有意な相関関係は見られなかった。

藤原と池上3)は静的状態でのCFP動揺の量的評価では立位姿勢を保持するための生理的な動揺が正常範囲内にある被検者問の差異をとらえることに限界があると報告している。本研究の被検者は顕著な疾病を有さない人たちであり、特にOG群には前々報と異なり、週に1,2度定期的に運動を行っている人たちが多く含まれていた。これらの要因の影響によって前々報と異なる結果がでたものと思われる。

脚筋力の低下は高齢者の日常生活の活動量を著しく減少させるし、脆弱な高齢者の場合、日常生活での機能的な自立能力と密接に関わっていることも明らかである。体力レベルがきわめて脆弱な高齢者を対象に測定を行った場合、脚筋力と静的・動的姿勢調節能力(歩行能力も含む)との間には強い相関関係がみられることが予想される。しかしながら、今回測定に参加した被検者の体力レベルは比較的保たれており、静的・動的姿勢調節能力には他の要因の及ぼす影響の方が大であった可能性が考えられる。筆者らは前々報7)において、OGではバランスを崩しやすいと思っている人の方が10m歩行時間が短いという結果を報告した。一見矛盾するような結果であるが、測定に自ら参加する程度の体力レベルの高齢者の場合、バランスを崩すのは筋力や歩行能力以外の要因の影響が小さくないのではないかということを物語っていると思われる。

本研究ではOGについて、握力や垂直跳びなどの従来の体力測定項目の測定を行った。その結果、立位体前屈と上体反らし、反復横跳びは年齢と有意な負の相関を示した。また、動的姿勢調節能力の指標としたTL,MLと比較的多くの有意な負の相関が認められたのは反復横跳びであった。今回の動的姿勢調節能力の測定・評価方法の精度をあげるためには、体力レベルが脆弱な高齢者まで測定範囲を広げる必要があるが、一方、フィールドで比較的簡単に測定を行うことを考えると、事故の危険性に配慮して、跳躍せずにその場で一定範囲以上体重を移動させる動作を反復する方法などを試行してみるのも興味深いものと思われる。

 

まとめ

本研究では平衡機能の測定に重点を置き、特に動的状態での平衡機能の評価方法として移動視標追従(トラッキング)法を試作し、それと静的平衡機能や下肢筋力等との関係について13歳〜72歳の女性61名について測定を行った。移動視標としたのは周波数の異なる5種類の正弦状波形で、被検者のCFPの視標ピークに対する時間的ズレ(TL)と振幅のズレ(ML)を記録した。静的平衡機能の指標にはCFP動揺を用いた。

 

 

 

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