関する測定変数が有用な指標であることを報告した8)。
このように、歩行能力と脚筋力は加齢やトレーニングの影響を敏感に察知する指標であると思われるが、初年度にこれらの指標と高い相関がみられた平衡機能に関しては未検討のままであった。平衡機能あるいはバランス能力はFalls2)が提示した時点での「健康に関連した体力」(Health-related fitness)には含まれていないが、加齢にともなって低下することは経験的にも先行研究の結果からも明らかな指標であり、高齢者における「転倒」問題の重要」性を考慮すると、広義の「健康に関連した体力」に含まれるべき要素であると考えられる。
平衡機能あるいはバランス能力の測定・評価方法としては、これまで閉眼/開眼片足立ちやその場足踏みなどの簡便な方法に加えて、姿勢の動揺測定や歩行解析などが行われてきた9)。姿勢の動揺評価には安楽立位姿勢での足圧中心(Center of foot pressure;CFP)の動揺を量的に評価したものが多く、筆者らも前々報においてCFP動揺を指標に用いた7)。しかしながら、静的状態でのCFP動揺の量的評価には立位姿勢を保持するための生理的な動揺が正常範囲内にある被検者問の差異をとらえることに限界があるとの報告3)があり、また老人の転倒などの事故経験と静的状態での平衡機能の分析を行った研究11)によれば両者の間に明確な関係は認められていない。
このような状況をふまえて、近年藤原ら1,5,6)は動的状態での調節能力に着目し、外乱刺激や視覚情報に対する平衡機能の適応性という観点に立った興味深い研究を報告している。
そこで本研究では「体力測定」項目のなかで平衡機能の測定に重点を置き、特に動的状態での姿勢調節能力の観点から動的平衡機能の評価方法を試作し、それと静的平衡機能や前々報で報告した下肢筋力等との関連について検討することを主な目的とした。
研究方法
1. 被検者
本研究で調査測定の対象とした被検者は、体力測定等に支障を来たすおそれのある障害を有さない13歳〜72歳の女性61名であり、その中には日常特に運動習慣のない被検者から週に1,2度定期的に運動を行っている被検者が含まれていた。測定に先立ち、被検者全員に研究の趣旨・目的と測定にともなう危険性について説明し、本研究の遂行に同意する旨の同意書を得た。表1に被検者の身体的特徴を若年齢者群(YG)、中年齢者群(MG)、高年齢者群(OG)に分けて示した。
2. 測定項目
1) 形態
身長と体重を測定し、BMIを算出した。表1に明らかなように、3群ともBMIの平均値は20〜23であり、極度の肥満者や痩身者はいなかった。
2) 脚筋力
(株)ヤガミ社製脚筋力計GF-300を用い、左右各脚の最大等尺性膝関節伸展筋力を測定した。被検者は椅座位で膝関節を約90度にした状態から前方に全力で3回膝関節伸展動作を行い、最大値を各被検者の値として採用した。
3) 静的平衡機能
前々報同様、(株)パテラ社製圧力板GS-1000を用い、立位姿勢時の定圧中心(CFP)の動揺を測定した。被検者に圧力板の上で安楽立位姿勢をとらせ、20秒間姿勢保持を行ったときのCFP動揺距離(mm)について記録した。
4) 動的平衡機能
今回新たに動的平衡機能の試案として、一定視標追従(トラッキング)の測定を行った。具体的な手順としては、まず被検者に圧力板GS-1000上で開眼、開定位で安楽立位姿勢をとらせ、圧力板から入力された信号をADI社製MacLabで処理し、被検者の1m前方に設置したモニター上にCFPとして表示した(図1)。モニター上には移動視標としてMacLabで作成した正弦波状トライアングル波形を表示し、被検者がその波形をCFPで追従する過程を記録した。測定は前後方向条件と左右方向条件について各々行った。前後方向条件の測定で表示した正弦波状トライアングル波形