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20) Winter, D.A.:Biomechanics and motor control of human movement. John Wiley & Son, Inc. 1990.

 

3年間のまとめ

深代 千之

 

私は3年予定の調整力専門委員会に最後の2年のみ参加しましたので、その2年間の研究について、以下にまとめます。私どもの班は、主に「トレーニングとデトレーニングが動作の調整におよぼす影響」について検討しました。

1. 中高年者のレジスタンストレーニングによる歩行動作の変化

中高年者9名を対象に、体幹と下肢のレジスタンストレーニングを行った場合の筋力増加と歩行動作の対応を検討した。レジスタンストレーニングによって、膝伸展筋力が有意に増大した。しかし、中高年者の歩行において、脚伸展筋力が増大したからといって自由歩行におけるスライドが伸び、ピッチが速まるということはなかった。ただし、歩行動作それ自体をみると、トレーニングで膝伸展筋力が増すことによって、歩行の両足接地期における股関節はあまり開かずに、脚接地時と踏み出し時の膝関節がより伸展するという変化が認められた。したがって、「脚のレジスタンストレーニングで筋力が増大すれば、膝がしっかり伸びる歩行動作となる可能性」が本研究により示唆された。

 

2. 身体不活動による垂直跳能力の変化−筋萎縮を補う運動の調整について−

健常な成人5名を対象に、20日間のヘッドレストを課した。その間、毎日、片足(右脚)のみトレーニングを行わせ、等質の筋と考えられる左右の脚で、トレーニングの影響とヘッドレストの影響をみようとした。そして、垂直跳をヘッドレスト前後に行わせ、筋萎縮と、それに応じた身体運動中の調整能を下肢3関節の貢献によって評価した。その結果、ヘッドレスト後には、膝・足関節の仕事量が減少していたが、股関節は増加傾向にあった。すなわち、身体不活動後の自由な垂直跳では、「足関節の出力低下を股関節が補償する」という調整が働いているのではないかと推察された。本研究の身体不活動によるこの結果は、加齢であれ身体不活動であれ、筋萎縮が生じた場合での身体全体の自由な運動では出力低下している部位を他の部位が補助するという調整が行われているのではないかという1つの実証を示すことができた。

 

まとめ

中高年者の筋力および運動能力の低下は、加齢による生物学的な影響と身体不活動による環境的影響とが相互に重なり合って生じると考えられる。筋は適切な負荷を与えれば肥大し、逆に負荷が与えられなければ萎縮するが、一般に筋力低下期にある中高年者でも筋力トレーニングを行えば膝がしっかり伸びる歩行が可能となることを実験1によって実証した。また、自由な身体運動では、不活動によって極端に萎縮した筋を、それほど萎縮していない筋が補償あるいは調整するということを実験2で実証した。

 

 

 

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