ングしなかった(つまり完全な不活動状態の)左脚では残念ながら筋力低下が認められなかった。これについては、右脚トレーニングによる「トレーニング効果の伝播」が左脚に生じたということ、あるいは被検者の測定への慣れということなどが考えられるが、結論づけるには至らない。この点を明らかにするためには、被検者数の増大や、両脚不活動のヘッドレスト実験などでの確認が必要であろう。ただ、自由な垂直跳での右脚の膝伸展出力(トルク・パワー・仕事量)がヘッドレスト後でも維持され、あるいは大きく貢献するといったことはなかった(表3)。この結果からいえることは、ヘッドレストのような不活動による筋萎縮や筋力低下については、「単関節の筋出力」と「身体全体の自由な運動」とは必ずしも一致せず、分けて考えたほうがよいのではないかということが示唆された。
そこで、自由な運動である垂直跳のヘッドレスト前後の比較であるが、まず第1点として、図2のパワー発揮曲線に示すように、動作時間がヘッドレスト後には延長していること(特に股関節)が指摘されよう。ヘッドレスト前後でほぼ同じ体重を、垂直方向へ移動させる場合に萎縮した筋では当然生じる結果(ピーク値の減少と動作時間の延長)としてとらえることができる。また、表3に示すように、ピークトルクはヘッドレスト前後でそれほど変化がないのに、ピークパワーは膝・足関節で減少傾向にあった。つまり、自由な垂直跳におけるピークパワーの減少は、トルク(つまり力)よりも速度の減少に依存していることを示している。速度低下は結果として動作時間の延長につながるといえる。第2点として、跳躍高低下の原因は、ヘッドレスト後の膝・足関節の仕事量の減少が主であると考えられる。ただしここで、足関節の仕事量の有意な低下(膝関節も低下傾向にある)に対して、股関節は有意ではないが増加傾向にあるという点を指摘したい。これが本研究で特に主張したい点である。すなわち、身体不活動後の自由な垂直跳では、「足関節の出力低下を股関節が補償する」という調整が働いているのではないかと推察されるのである。両関節の主働筋を、二頭筋と考えると、解剖学的に筋量の少ない下腿三頭筋の萎縮による出力低下を、筋量の多い大殿筋・大腿二頭筋の出力が補助しているのではないだろうか。逆にいえば、この結果は、ヘッドレスト前(筋萎縮する前)の通常の状態での垂直跳では、最大努力であっても股関節に関していえば、