中・高年女性の側方から見た身体の投影面の面積が変化したことを報告している。その例では体型が変化したことによって姿勢も変わっているが、今回のような1回だけの体操による一時的な姿勢の変化とは意味の違った効果であろう。姿勢の改善における軽体操による一過性の効果については、体型の変化によるものや骨の器質的変化によるものなどではなく、身体意識(筋の使い方など)の向上によるものが大きく、筋や腱の柔軟性の向上もそれを補助していると思われる。最近では大股速歩のエクササイズ・ウォーキングに代わるものとして、背すじを伸ばして歩くニューエクササイズウォーキングを勧める研究があり、下肢筋の強化に対する効果や筋電図のバイオフィードバックによる姿勢矯正への効果が報告されている10)。1回の軽体操による効果は、このバイオフィードバックと同様に身体意識の向上によるものと考えられる。また、単に“よいと思う姿勢をしてください”と姿勢に対する注意を与えるだけでも姿勢は一時的に変化する場合もあるのだから、日常生活の中で姿勢を意識的に調整することは、よい脊柱形状の保持や同じ姿勢を長時間続けないために重要であろう。
今回は軽体操によっても意識的調整によっても姿勢は「よい」ほうへ変化する例が多かったという結果であったが、実際の運動経験としての体操の効果と姿勢に対する注意を与えることの効果を分けて考える際には、対照群と比較してみていく必要があるだろう。また、対象者の中には、継続的に体操をおこない普段から背すじを伸ばすことを意識していたところ、腰痛が治ったという事例もあった。しかし、今回は継続的な研究による効果の把握をおこなっていないので、今後の縦断的な調査が必要であろう。
まとめ
本研究の目的は軽体操や意識的調整が姿勢に与える一過性の効果をみることで、都市在住の18〜69歳の女性45名を対象に直立位、長座位などの10姿勢を側方からVTRで撮影した。対象者は言葉のみの指示に従い、直立位や長座位における「リラックス姿勢」や「意識してつくったよいと思う姿勢(意識姿勢)」をとった。体操前後での姿勢の違いをみるため、約5分間の簡単な体操をおこない、その直後の10姿勢も撮影した。
姿勢の判定については、胸・腹部の型をa:胸張腹引型(凸凹型)、b:胸張腹凸型(凸凸型)、c:胸引腹引型(凹凹型)、d:胸引腹出型(凹凸型)の4種類に検者の主観で分類し、今回は、a型がもっとも「よく」、d型がもっとも「よくない」、b型とC型はその中間であるとした。そして背・腰部の型は、A:反りのある型(凹型)、B:平らな型(平型)、C:丸みの浅い型(小凸型)、D:丸みの深い型(大凸型)の4種類とし、A型、B型、C型、D型の順に「よい」姿勢であると考えた。
全体的に「リラックス姿勢」よりも「意識姿勢」のほうが「よい」姿勢であり、上体のアラインメントの年代による差はあまりみられなかった。体操前後の違いについては、直立位、長座位ともに「意識姿勢」に「よい」変化があり、特に長座位で変化した例が多かった。「リラックス姿勢」には「よい」変化とその逆の変化の両方の例があり、主に長座位でそれがみられた。「リラックス姿勢」と「意識姿勢」の違いは、体操前よりも体操後によくあらわれ、直立位よりも長座位で違いのある例が多かった。直立位の背・腰部は、胸・腹部ほど明らかな変化がなく、長座位では、背・腰部、胸・腹部ともに変化があった。
軽体操によっても姿勢に対する注意を与えることによっても姿勢の変化はみられ、体操することにより意識的調整の効果も大きくなると考えられた。
文献
1) 浅見高明たち:大学スポーツ選手の姿勢の特徴について。姿勢研究、1:34-39, 1981.
2) Hewes, G. W.:The Anthropology of Posture. Scientific American 196:123-132, 1957.
3) 猪飼道夫:姿勢の研究,体育の科学、3:190-193, 1953.
4) 唐津邦利:肥満婦人の姿勢と肥満軽減に伴う姿勢の変化。姿勢研究、3:79-86, 1983.
5) 宮下充正:あるく−ウォーキングのすすめ−。