日本財団 図書館


13) Wickstrom, R. l.:Fundamental motor patterns, 3rd. Edi. Lea&Febiger, pp. 43-63, 1983.

 

3年間のまとめ

宮丸 凱史

 

宮丸班の3年間の共通テーマは、幼少年期の移動運動(走・跳)の発達に関する運動形態学的考察であった。幼児のロコモーションの発達に関する研究は、これまでにも多くの研究報告がみられるが、(1)主として、移動系の運動獲得の初期段階(1〜2歳)における動作の発達過程をとらえること、(2)これまであまり観察されてこなかった視点から、走・跳運動の発達をとらえることによって、幼児の移動動作の発達に関するこれまでの知見をいくらかでも補完しようとすることが目的であった。

以下、各年度の要約を記して3年間のまとめとする。

 

1. 走運動の始まりに関する運動形態学的考察(1995年度)

幼児期(2歳から6歳)の走動作の発達に関する研究は多いが、もっとも初期の段階(生後17〜18ヵ月ころ)の走運動の始まりに関する研究はみられない。そこで、生後17から23ヵ月の幼児を被検者として、毎週1回、7週間にわたってかれらの歩・走運動をビデオに収録した結果、偶然にもその中に「初めての走運動」とおもわれる事例をとらえることができた。

その分析によって、「歩」から「走」への移行における動作の変容をとらえた。走り始めの走運動における「非支持時間」はわずかO.04秒であった。最初の走運動は、歩行の段階より明らかに速度が大きく、歩数(ピッチ)が多かったが、歩幅や動作パターンに違いがみられなかった。このことから、走運動の出現は、支持期の短縮とそれによる歩数の増大、接地中の鉛直地面反力の増大によるわずかな非支持時間の出現によることが示唆された。

 

2. 幼児の垂直跳動作の発達に関する運動形態学的考察(1996年度)

これまで、幼児期の跳動作に関する多くの研究では、立幅跳を運動課題としてなされており、垂直方向への跳運動を対象とした報告はきわめて少ない。そこで、2〜8歳の幼少児を被検者にして垂直跳における動作の発達過程を分析した。幼少児では、跳躍高をテストする通常の垂直跳が難しいので、頭上の目標物に手を伸ばして触るJump and Reachを課題とした。

幼児のJump and Reachにおける跳動作は、2歳頃の未熟なパターンから年齢とともに洗練化し、7,8歳頃にはかなりの習熟位相に達していることがわかった。主な動作の発達は、(1)踏切動作中の下肢の動作範囲が漸増すること(それは、主として最大かがみ込みにおける膝と腰の屈曲角度の増大による)、(2)腕の動作は、未熟なタイプから踏切時に上方へ振り込む有効な動作タイプに変わること、(3)滞空局面で頭部の背屈、身体の伸展、目標への注視がみられること、などであった。

 

3. 背面からみた幼児の走動作の発達(1997年度)

これまでに、幼児の走動作の発達に関する研究は多くみられるが、そのほとんどは、走者の側面から撮影し、分析するものに限られていた。年少児の走運動は、腕や脚を身体の長軸のまわりで大きく回す動きに特徴づけられる。そこで、107名の幼児の走動作を背面から撮影し、その画像の分析から歩幅(Step width)を算出するとともに、背面からみた走動作中の腕と脚(足先と膝)の動きの特徴とそれらの年齢変化を明らかにした。

その結果の要約は、以下のようであった。(1)疾走中の歩長(Step length)は年齢とともに顕著に増大するが、歩幅および歩幅/身長は年齢とともに減少する。(2)年少児に多い、回復期の足先の外輪(Toeing out)や膝の外転(Abduction)が、

年齢とともに減少する。(3)年少児では、後方への腕の動作において、腕を伸ばして外側に振るタイプが多くみられるが、年齢とともにその傾向は減少する。これらの結果を、これまでの幼児の走動作の発達についての知見に加えることが重要である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION