あまり高く上げることなく、身体の長軸まわりに回して前方に引き出すからであり、筋力の乏しい幼児にとっては合理的な解決方法とみられる。やがて、筋力が向上し、歩長が増大するにつれ、膝の外転や足先の外輪はしだいに減少すると考えられる。こうした足先や膝の動きの年齢変化は、幼児期の走動作の発達を意味している。
3) 後方への腕の動き
図10は、背面からとらえられる腕の動きを、図4のような典型的な4つのタイプ(Type-H,Type-I,Type-J,Type-K)に分類し、各年齢における割合(%)を示している。1歳児では、両腕をあまり動かさないType-Hが60%を占めていた。走り始めの初期段階では、歩長が極端に小さく、それに対応して腕の動きも少なく、両腕をやや引き上げて体側に置いて安定装置にするタイプがほとんどである7)。Type-Hはそのタイプであった。2〜3歳児では、後方で両腕をともに外側へ伸ばして振るType-Iが85〜90%であった。4〜5歳ではType-Iは減少し、5歳では、後方で両腕の肘を曲げて振るType-Kが18.2%であった。
このような腕の動きの年齢変化は、2〜6歳の走動作の発達に関する報告9)やWickstrom13)の考察とほぼ同様であった。
幼児に多いType-IやType-Jでは、後方で腕を伸ばして外側に振り出した後、最後には腕の振りが内側へ弧を描くようにして前方へ運ぶタイプがほとんどであった。これは、脚の回転運動に対して均衡を保つためと考えられ、脚の動作に対応して現れる幼児の走動作の特徴であろう。
要約
1歳から5歳の幼児107名の走動作を側面と背面から撮影し、歩長(Step length)と歩幅(Step width)の年齢にともなう変化をとらえるとともに、背面からみた幼児の走動作における腕と脚の動きの年齢にともなう変化を分析した。結果は以下のように要約された。
1) 幼児の疾走における歩長は年齢とともに顕著に増大するが、歩幅および歩幅の身長に対する比は経年的に減少した。
2) 背面からみた幼児の走動作において、回復期の足先の外輪、膝の外転の動きが、年齢とともに減少する傾向が明らかになった。
3) 後方への腕の動作において、腕を伸ばして外側へ振る動作が、年齢とともに減少する傾向が明らかになった。
これらの結果は、背面からみた幼児の走動作の特徴とその発達的傾向を示している。
文献
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