ことが、本研究の筋電図的解析結果より判明した。
2. 歩行の獲得
生後初めての連続歩行では、歩行バランス維持のため成人歩行でみられない過剰な筋活動が認められた5,6,9,12,14〜16)。これらは未発達な筋力・バランスを補うために参画しているものと考えられる5,6,17)。本研究における接床期の膝・股関節筋(内側広筋・大腿直筋・大腿二頭筋)の筋電図パターンは、着地直後からpush offまで、一関節筋の内側広筋は強い持続放電パターンが多くみられ、同時記録された膝のゴニオグラムより膝が完全に伸展されていないことから膝屈曲位保持(中腰保持姿勢)に働いていることが推測される6)。この中腰保持姿勢は体の重心を下げ安定性を得るのに役立っていることを示している。連続歩行が成功したときは、二関節筋の大腿直筋と大腿二頭筋では、大腿直筋に放電がみられず大腿二頭筋に放電のみられる相反パターンが多くみられ、体前傾保持姿勢に働いていることがわかる6,9)。また、大腿直筋と大腿二頭筋の逆相反パターンと、両筋の同時放電パターンが一部みられ、前者の逆相反パターンは体後傾時に働く前脛骨筋の放電と同期していることから、体後傾保持姿勢に参画していることが推測される8)。後者の同時放電パターンは先に述べたpush off前のstandingと同様、体直立保持姿勢を示しているものと思われる6)。これら3筋(内側広筋、大腿直筋、大腿二頭筋)の放電様相は幼児・成人歩行にはみられないことから、独立歩行開始期の歩行バランスに関与する筋電図パターンであると考えられる。膝・股関節に関与する二関節筋の大腿直筋と大腿二頭筋の筋活動は、体前傾・直立・後傾の調整の他に、膝・股関節の保持・固定にも参画しバランス調整に働いていることが考えられる。一方、足関節筋(前脛骨筋、腓腹筋)は、上記各種中腰姿勢(体前傾・直立・体後傾保持姿勢)のバランスコントロールに関与し、体の重心を両足基底面内に戻すよう作用し、重力に抗してバランスを維持するのに役立っているものと思われる。すなわち、前方への転倒防止に働く腓腹筋と、後方への転倒防止に働く前脛骨筋のburstが交互に交代する相反パターンは、歩行獲得期の特徴的な歩行制御パターンであることが、本研究結果より示唆された。また、従来より指摘してきた両筋の同時放電パターン5,6,8,9,14)もみられたが、これはMcGraw4)が指摘しているように、グリッピングに参画し足関節を固定し前方転倒を強く阻止しているものと推測される。足関節筋の前脛骨筋と腓腹筋の筋活動パターンは歩行制御と考えられる幾つかのバリエーションが存在することが判明した。以上のことから、各種中腰姿勢のバランスコントロールに多くの下肢筋が関与していることが考えられるが、特に下肢末端の足関節筋が歩行バランス制御に重要な役割を果たしているものと思われる。
離床期では、離床期後半に足底屈に働く腓腹筋と、膝伸展に働く内側広筋に強い放電がみられるパラシュート反応パターンが多く認められたのは、先に述べたように転倒を防ぎ早く着地するためのものであり、独立歩行開始期の不安定さを示す筋電図的指標と考えられる5〜9,11,12,14〜16)。この筋電図パターンは、不安定さを感知し始める生後2〜3ヵ月頃の乳児期の原始歩行(支持歩行)にも多くみられたことから3,13,16)歩行獲得期においても乳児が不安定さを感じ、転倒防止のため反射的動作が出現したものと思われる。
要するに、独立歩行開始期の乳児歩行の接床期は、中腰で体前傾姿勢が多く、瞬間的に体後傾や体直立姿勢がなされるが、足・膝・股関節の絶妙な筋活動により歩行バランスが維持されていることが判明した。また、離床期前半に挙上された片脚は、離床期後半素早い着地動作がなされ、連続歩行が遂行されていることが本研究の筋電図的解析結果より明らかになった。
以上、本研究の歩行の縦断的筋電図記録、ならびに従来の歩行の筋電図的発達過程5〜9,11〜14)から、独立歩行開始期にみられた乳児特有の筋電図パターン(中腰体前傾姿勢と、着地前の積極的な脚伸展を示すパラシュート反応パターン)は幼児・成人型歩行と異なり、歩行習得1ヵ月頃まで多くみられたが、歩行習得1ヵ月以降は、乳児特有の筋電図パターンが減少・消失する傾向がみられた。それゆえ、体前傾ですり足的な幼児型歩行や、体