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?U章 姿勢・歩行調整能の発育と退行

 

調整力専門委員会3年間(平成6年度〜8年度)の研究のまとめ

委員長 金子 公宥

 

わが国はいまや生涯学習社会といわれる時代を迎え、幼児から高齢者までのライフステージに応じた適切な健康・体力づくりが求められている。このような時代背景をにらんで調整力委員会では、幼少期における調整力の獲得と発達、および老年期におけるその退行の問題を体力的・動作学的に分析してその対応策を探るため、『調整力の発達と老化』をテーマに研究を進めた。研究対象の身体運動は日常の基本運動(立つ、歩く、走る、跳ぶ)として下記の委員を班長とする7つの研究班<注1>を編成し、石河利寛、小野三嗣両顧問のアドバイスを得ながら3ヵ年の研究事業を行った。以下はその研究成果の概要である。<注1>岡本勉(関西医大)、宮丸凱史(筑波大)、森下はるみ(お茶の水女子大)、木村みさか(京都府立医大)、渡部和彦(広島大)、金子分宥(大阪体育大)、深代千之(東京大)

 

1. 発育にともなう調整力の発達

人間が他の動物と明瞭に区別される生物学的特徴は「直立二足歩行ができる」点にあり、したがって歩行動作がうまくできるということは、生物学的な意味での人間らしさの証明でもある。高齢者にとって歩行能力は、自立した生活を営むのに不可欠の行動力である。

この人間を特徴づける直立二足歩行は、果たして生後のいつ頃にどんなプロセスで発達するのか。岡本班は筋電図を駆使してこの問題の解明に当たった。生後間もない新生児は、両脇を抱えられた状態でいわゆる原始歩行をする。すなわち、足・腰・膝を深く曲げて足を大きく引き上げ、足関節を背屈したまま踵からゆっくり着床する。それがやがて爪先から着床する乳児歩行に移行し、「足音が聞こえるほど」の力強いステップに発展する。1歳前後に独立歩行が開始すると、その1ヵ月くらいまでは「つま先(または足底全面)で着床する不安定な歩行であるが、2〜3ヵ月するうちに不安定歩行の原因と目される腓腹筋の活動が減少して、踵着床の安定した幼児歩行となる。成人では腓腹筋の活動がみられず前頚骨筋のみの活動で踵から着床するが、それまでの発達段階が岡本らの研究で詳細に明らかにされた。

歩く運動から走る運動への移行はいつ頃、どのように始まるのか。この課題に挑戦した宮丸班の研究では、生後1歳半から2歳の幼児10名の動きを毎週1回づつ7週間にわたっ

 

 

 

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