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この違いは、前回と今回の分析で採用したデータの相違に起因するところが大きい。前回は、中学・高校の運動部活動に対する意識として、現在に近い方を用いたため高校の運動部活動への意識が主に反映されていたのに対し(前回の分析のデータのうち高校運動部活動への回答は88.1%であった)、本研究では中学校の運動部活動に対するデータに限定した。高校3年間+αの時の経過とともに、またその間における様々な経験の影響で、調査対象者の意識の明確さが薄れたことによる現象ではないかと考えられる。また、過去の運動部活動への意識が、階層的な構造をもっており、上述のような状況ではより上層のまとまりが現れやすかったのではないかとも考えられる。

中学・高校の運動部活動が、将来の組織的なスポーツ活動への参加に積極的な役割を果たしていることが現在大学生である対象者からの追想的なデータから再度確認された。

中学校〜高校の間での初めての運動部活動経験は、組織的なスポーツ活動への主体的な参加という観点からは、入り口もしくは入り口から続くゲートウェイの意味をもつ重要なものである。本研究では、この意味で中学校の運動部活動への意識を取り上げ、それと現在のスポーツ参加状況との関連を分析した。運動部活動への意識を構成する要因として、?@指導者の効果性、?A社会・心理的側面での充実感、?B技能や能力の側面での充実感、?C活動の主体性、?D部(チーム)への満足感の5因子が抽出された。これらのうち、?Cを除く4因子が現在のスポーツ参加状況と関わりをもつものであった。

指導者への意識では、有効性ばかりでなく開放性も現在のスポーツ参加状況と関連を有するものであり、関連のあり方には、性、種目による違いが窺われた。

3年にわたり、過去の運動部活動への意識と将来のスポーツ参加状況との関わりを検討してきた。運動部活動への意識を構成する要因を明らかにしようとし、包括的な調査を行い一定の結果は得られたが、まだ不十分な面も残っている。今後の研究では次の2つの方向を中心として、さらに精細な調査・分析が必要であることを痛感している。?@項目設定、サンプリングなどにも十分配慮した包括的な研究を目指していく方向。?A運動部活動への意識のうち、特定の要因(たとえば指導者への意識)に焦点を絞り、必要であれば事例的な方法も含めた詳細な研究を目指していく方向。

 

(注1)指導者の効果性1指導者の指導技術や統率能力など、どれほど効率的に運動部活動を指導できるかに関わる特性もしくは能力

(注2)自己開放性:自己開示とも呼ばれ、個人が自分白身を相手にどの程度あからさまにしているかの程度を意味する。Jourard11)は、?@誰に、?Aどの程度深く、?Bどの程度広い自己開示を行うかを測定する尺度を開発している。また、対人関係における個人と相手の関係を、?@解放領域(自分でわかっていて、相手もわかっている領域)、?A盲点領域(自分ではわからず、相手はわかっている領域)、?B隠蔽領域(自分ではわかっているが、相手にはわからない領域)、?C未知領域(自分も、相手もわからない領域)の観点から分析しようとするモデル(Johari Window、柳原12))も存在する。

本研究の運動部指導者の自己開放性は、Johari Window にあてはめれば、?@と?Aの領域と考えることができる。

 

文献

1) 山口康夫、池田勝:スポーツ社会学の最近の研究動向1−スポーツの社会化−、体育の科学、37:142-148, 1987

2) 金峰良三、橋本公雄:青少年のスポーツ・コミットメントの形成とスポーツ行動の継続化に関する研究−中学生・高校生を対象に−、体育学研究。39:363-376, 1995

3) 落合優:学校運動部員の部活動への意識とスポーツ継続意欲との関連、体育科学、24:66-74, 1996

4) 落合優:大学生における過去の運動部活動と現在のスポーツ参加状況との関連について、体育科学、25:52-61, 1997

5) 青木邦夫:高校運動部員の部活動継続と退部に影響する要因、体育学研究、34:89-100, 1989

6) 桂和仁、中込史郎:運動部活動における適応感

 

 

 

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