日本財団 図書館


ステージの相違の影響については、検討課題のままであった。そこで本研究は、昨年度の被検者に13歳運動部群と17歳コントロール群を追加することによって、上記の課題の解明を試みた。

スプリントパフォーマンスにおいて、運動部へ加入している群の方が13歳と17歳のいずれにおいても同年代コントロール群に比べてより高い能力を示した。とくに13歳運動部群は、すでに17歳コントロール群及び成人群とほぼ同様なパフォーマンスを示していた。13歳運動部群は、身長、体重においてそれらの群に比べて低値を示しているが、血中乳酸値および筋酸素動態の結果は17歳群および成人とすでに同等な能力であったことが示された(表2,3)。一般に、思春期前半の子どもにおける筋エネルギー代謝の特徴の1つとして、スプリント走能力に重要である骨格筋の解糖能が成人に比べて低いことが知られている3,4)。一方、スプリント・トレーニングを実施すると、子どもの解糖能力は成人並に達することも明らかにされている1,3,4,5)。本研究の13歳運動部群の専門種目はスプリント走であるので、日頃のトレーニングにより筋の解糖能が向上していた可能性は十分に予想される(表2)。解糖能のトレーニング効果という観点からみると、17歳時においても運動部群の方が同年齢のコントロール群に比べて統計的に有意に高い血中乳酸値を示している。このことは、思春期後半に位置づけられる17歳においても日頃の活動量の増加によってその能力は相当高められ、一般成人を上回ることが示された。

運動部加入群と部活動を行っていないコントロール群では筋の解糖能が異なり、運動部加入群のその能力は13歳であってもすでに一般成人なみになっていることが示唆された。このような筋のエネルギー代謝能力の保持が、スプリント走中の筋の酸素動態にどのような影響を与えるかは興味深いと考えられる。本研究では、いずれの年齢においても運動部加入群の方がコントロール群に比べてより低酸素状態を示した(表3)。これらの結果は、筋の酸素状態が血中乳酸の動態と同期している可能性、すなわち解糖能と密接な関係にあることを示唆するものと考えられるが、今後のさらなる検討が必要である。

本研究の結果でさらに興味深いのは、13歳及び17歳のいずれも運動部群の方が、5本目においても1本目と同様な筋酸素動態であったことである(表3)。一方、2つのコントロール群および成人群は、5本目において統計的に有意に低値、すなわち1本目に比べて非低酸素状態を示している。しかしながら、この結果がもたらされた生理的メカニズムは現在のところ確定するのは困難である。とくに、本研究における筋酸素動態の測定法では、疾走中に筋の酸素摂取量が増大したかどうかを方法論的な問題から確定することができないためである。そこで現時点で我々が持っているデータからこれについて推測するならば、1本目と5本目の血流量の相違が影響している可能性が考えられる。全力でのスプリント走中において、筋への血流供給は明らかに低下している6)。本研究においても疾走中の筋の血液量の低下が確認されている。血液量の低下が起こる原因として、疾走中に筋が大きな張力を発揮するため、筋内圧が高まり、多くの毛細血管が一時的につぶされるためであると我々は推測している。スプリント走1本目に比べて5本目では、コントロール群の方が運動部に比べてより筋疲労をおこした結果、疾走中の筋の発揮能力が弱まり、1本目より血流供給が多くなり、筋酸素動態は運動部群にくらべて非低酸素状態を示した可能性が考えられる。方法論的な問題より定量化はできないが、コントロール群は運動部群よりスプリント走1本目に比べて5本目における血液量が顕著に多くなっていることが示されている。

本研究をまとめると、思春期前後期のいずれの被検者も運動部に所属し、日頃の活動量が高くなることによって、スプリント走中の解糖系の能力は成人と同等な能力を保持されること、およびこの能力の向上とスプリント走中の筋の酸素状態は密接な関係にあることが示唆された。

 

文献

1) Atomi, Y. et al.:Relationship between lactate threshold during running and relative

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION