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4.臨床症状

次に臨床症状ですが,主な症状は腹痛と下痢,そして下痢に引き続いて1〜2日後に起こる血便です。血便は40〜97%に見られます。ときに嘔吐が見られることもあります。また,発熱は比較的少なく,20〜40%に37℃台の軽度の発熱が見られます。溶血性尿毒症症候群を合併すると,乏尿や浮腫,蒼白,傾眠,けいれんなどを起こします。合併症を起こす頻度は約6%です。溶血性尿毒症症候群は下痢発症後約1週間後に発症し,溶血性貧血,血小板減少症,腎不全が起こります。溶血性尿毒症症候群により中枢神経系症状を合併した状態が血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)です。また結腸壊死,結腸穿孔,脳血管障害等を起こすことがあります。

合併症を起こしやすい危険因子は,5歳以下の小児と老人(65歳以上)です。また,腸管ぜん動を抑える薬を投与されている人は起こしやすいようです。たとえばロペミンやブスコパンやモルヒネなどで腸管ぜん動を抑えられると,腸の内容物がなかなか排泄されにくく,いつまでも菌とトキシンが腸内にとどまるために症状が遷延する可能性があるからです。

 

5.経過と予後

大部分は6〜8日で軽快します。致命率は全体で1.5%です。ただ溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病を起こすと致命率は3〜10%になります。老人ではやや高く,後遺症を残す例が約5%あり,慢性腎不全や神経系障害の後遺症です。

診断は便の培養ですが,この菌が培養で同定されるまでは3〜4日かかります。そのほかの検査法としてはベロトキシンという毒素を便から検出する方法があります。PCR法といって最近行われる方法です。

 

 

 

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