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守矢裕子さんのこと

南弘 明

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芸大受験まえからの付き合いである。急に予想外の飛躍をしない代わり、少しずつではあるが着実に成長する型、「急がず、休まず」型の努力家であることを、私は彼女の受験勉強時代からすでに気付いていた。

したがって、彼女の芸大入学後、私は彼女に勉強の方針を具体的に示唆したり、またそのときどきの彼女の勉強のためにふさわしい具体的な教材を示したりしたことはほとんどなく、意図的に放置しておいた。その結果、自ら興味の対象となるものを見つけ、それらから多くのものを吸収し、着実に成長した。

しかし、この自力で伸びてゆく良い傾向にありながら、私から見ると一つの欠点があった。それは楽想を十分発展させることなく、着想のままいくつも配列する傾向であった。

そこでに配列された楽想の一つ一つは緻密に書かれ、霊感に満ちていることすらあるが、聴く者にとってはただ一回限り、そして一瞬耳をかすめ通ってゆく印象でしかない。

このことに関して、私は彼女に、自ら早く気付くよう、そして克服するように何度も示唆してきた。平成七年度の音楽コンクールに入選した作品はまだこの欠点を含んだものであった。そして、審査員の某氏が、私とは異なる言葉でこのことを見事に指摘していた。

しかし、この文章の冒頭に述べた性格の彼女は、それ以後一年有余、徐々にこれを克服し、今日に至った。彼女が追求していた新しい音色づくりと深い情感の表現が以前より成長した形として見られるようになったと私は思っている。

今回の公演から、また多くのものを学びとり、今後もさらに成長を続けることと私は確信している。

最近の彼女についてもう一言。彼女は学部在学のときから少林寺拳法で心身の鍛錬をおこなっているためか、最近ますます性格が明るくなり、姿勢が良く、歩く姿が美しくなった。

私が手塩にかけた、可愛い門下生である。

 

 

 

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