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清水昭夫君のこと

佐藤 眞

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どういうわけか作曲科の学生は、その入学年度によってかなり似通った特徴を示すことがある。清水君の学年は保守的だった。なかでもその年、私のクラスを希望してきた男子学生3人は、凄まじいくらいそうだった。その中の1人が彼だったことは言うまでもない。なにしろ最初のレッスンに書いてきたヴァイオリンとピアノのための小品は、1ページの中の大半の小節が卜短調の主和音で、おまけに16分音符で一見華やかにうごくパッセージはショパンの「木枯らし」に酷似していた。

とにかくそんなところから彼の作曲科学生としてのスタートがきられた。今日の彼の作品を目の当たりにして、その不断の努力と能力の優秀さに、あらためて心を打たれずにはいられない。2年生のとき、ソロヴァイオリンと弦楽4重奏のための「相思相愛の夢」を作曲し、選ばれて旧奏楽堂で演奏される。3年生では、オーケストラのための「山の変容」が学内コンサートで演奏され、続けてヴァイオリンとオーケストラのための「刹那の春」を書く。

なお、この学年の終わりに、成績優秀なることが認められ、長谷川賞を受賞。4年生では、室内楽のための「無情の秋」と卒作のオーケストラのための「夢幻の花」を作曲。「君の作品のタイトルは、いつでも『の』がつくね」と私に言われたので変えてみたのが今回の「赤い花」だそうで、言った本人はとっくの昔に忘れているのに、そんなこと気にしたのかゴメン。

「清水って奴は、イイ奴だ」というのが、同級生を中心とする友達仲間の評判である。コンパのときなど、1人で立ち働いて会費を集めたり店との交渉をしたりする彼の姿を知らぬ学生はいない。今夜の成功を祈るのは勿論のこと、今後の輝かしい発展を切に切に祈るものである。

 

 

 

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