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導入などであり、これにより、科学的、客観的な公務員制度の法的枠組みが整備されるところである。

ところが、同条例においては、共産党支配、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想の堅持が掲げられるなど共産党による公務員管理の原則が前提とされており、公務員の政治的中立性を認めなかった。これは、旧来の「国家幹部」管理制度時代の考え方を踏襲したものであり、中国における政治体制、共産党の一党独裁体制からすれば当然の帰結と思われる。

また、同条例案の制定過程においては、政治公務員と行政公務員を分離し、別々の管理体系とすることが検討されたようであるが、1989年6月に起きた天安門事件を契機にそのような考え方は取らなくなった経緯がある。

公務員管理が共産党の統一管理の下に置かれていることの具体例としては、1994年から実施されるようになった公開の採用試験における予備審査や昇進等の際の審査が挙げられる。これらの審査は政治的、道徳的立場を重視した内容となっており、すべての受験応募者、昇任候補者はこの審査を義務付けられ、それをパスした者のみが資格を得ることができるというものである。

このように、公務員の任免、昇進、勤務評定等の運用面において党が管理しているということは、公務員としての資質向上の障害となるとともに、公務員の不正や腐敗の増加の大きな要因となるなど、様々な弊害をもたらしていると言われている。すなわち、国家公務員暫行条例において、いくら能力主義や科学的な人事管理施策を掲げていても、実際の公務員の任免、昇進、勤務評定等の管理権を共産党が事実上握っていては、公務員制度を適切に運用し、優秀で清廉な公務員の人材育成を推進していくことは困難であり、それによる公務員の士気の低下や倫理観の欠如は免れないからである。

公務員の士気や倫理観について論ずる場合、その国の政治体制や社会経済情勢、文化的背景等の様々な要因を考慮する必要があるが、中国の場合は、その要因の一つとしてこの党による公務員の統一管理と閉鎖性を指摘する西側諸国の研究者は多い。中国においては、公務員制度改革を開始する以前にも公務員による不正や腐敗は存在したが、新しい公務員制度が実施された以降においても、それらは減少するどころか、その規模と頻度において更に深刻化していると言われている。最近の中国政府の報告によれば、1994年1月から11月までの間に約9万5千件の不正・腐敗事件が発覚し、17億元の損失があったとされ、また、1995年には北京市の副市長が関与する汚職事件が発生するなど、

 

 

 

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