てのシートがその国の基本理念とかけ離れていたり、職場の実態にそぐわない場合には、そのシートを利用しなければ良いのであって、教材全体の価値を否定する必要はないのである。
経済のグローバル化、各国相互の接触が進んでいる現代では、何が効率的な職務遂行か、正しい倫理観とは何かについて、以前より共通化しやすくなっているのではなかろうか。特に資本や技術の面で、先進国に依存せざるを得ない面がある途上国にあっては、先進国の基準に合わせる形で自国の士気・倫理観を向上していかざるを得ないと言えよう。民間セクターがまだ十分発達していない途上国との関係では、経済に限らず、物事を進める場合には、その国の公務員と接触しなければならない機会が多いが、その公務員の士気・倫理観が低い場合には、その国の発展阻害要因となろう。
(4) 研修教材の対象職員
我々が職務上、途上国政府職員と接する場合、その多くは当該国政府の高官であったり、欧米の大学院などを出たエリート層の中堅公務員であることが多い。彼らとの接触で感じることは、彼らは非常に優秀であるということである。
また、今回調査した国を含め途上国の多くは、旧宗主国の遺産であるにせよ、統治機構・公務員制度を始め、各制度は整備されている。このような優秀な人材・整備された制度を有しているにもかかわらず、発展していない国々があるのである。
このような事態の原因は、制度はあるが、制度が適切に運用されていないことにあるのではなかろうか。そして、運用が適切に行われていない原因は、運用に従事する最前線の公務員の能力、士気・倫理観に問題があるからではなかろうか。そして、職員数の点で多数を占める彼らの士気・倫理観の低さが、組織全体の低迷をもたらしているのではないかと推定される。
実際、途上国政府が自ら実施する研修、そして先進国による途上国政府職員に対する国際協力研修とも、政府高官や幹部候補生たる中堅公務員を対象とする研修が多く、第一線で運用に従事する一般公務員を対象にする研修は数少ないように思われる。
ただ、制度運営の第一線を担う一般公務員を対象にした場合、研修対象職員数は多大な数となり、直接これらの職員を対象とすることは効率的とは言えない。そこで、個々の職員が効率的な公務遂行を実践し、士気・倫理観を高めることも重要だが、そうした行動規範を職場全体に拡大することが本研修教材の目的であることから、本研修教材は第一線で職務を遂行する職員を指導する立場にあり、職場の雰囲気を形成する立場にある職員、つまり初任監督者レベルの職員を対象にすることとする。