Q-13 少々複雑な話なのですが、現在私には兄弟が3人おり、私の子供だけ重度の障害を持っております。同居している私の父は、自分の財産を全て私の子供(つまり父にとっては孫にあたる)に相続したいと常々申しております。こういった場合、どの様にすれば父の意志を反映することができるのか教えて下さい。
A 民法上、財産を相続する権利のある人を法定相続人と言いますが、このケースのように複数の法定相続人がいて、かつ相続財産の全部またはそのほとんどを1人だけが相続するような場合には、細心の注意と生前の準備が必要になります。
ご質問のケースでは、お父さんの財産を相続する権利のある法定相続人は、お母さんとあなたを含めた4人のご兄弟の計5人ですが、実際にお父さんが財産を残したいと考えているのは法定相続人ではないお孫さんということにになりますから、相続後に遺産分割のトラブルが起きないよう心しておかなければなりません。遺言書さえ作っておけばよいと考えている人がよくいますが、それだけでトラブルが防げると思ったら大間違いです。
なぜなら、遺言書で各相続人の相続分を指定することはできますが、相続人の「遺留分」を侵害することはできません。この遺留分とは被相続人が遺言をもってしても、勝手には処分できない一定割合のことを言い、兄弟姉妹以外の相続人、すなわち子供や配偶者に認められている権利です。ご質問の場合、父さんの配偶者であるお母さん、子供であるあなたのご兄弟にはみな遺留分があります。従って、お父さんの財産が遺言によって全額あなたのお子さんに遺贈(法定相続人以外が相続をした場合「遺贈」と言います)され、それを不服とした相続人の誰かが「遺留分の減殺請求」をした場合、その人の遺留分はその人が相続できることになります。ちなみにご質問のケースでは、ご兄弟の遺留分は相続財産の1/16(法定相続分1/8×遺留分1/2)、お母さんが1/4(同1/2×1/2)です。遺留分程度はしようがない……と考えれば法律的には決着がつきますが、兄弟間で精神的なしこりは残ることになるでしょう。
こうしたことが起こらないように、まず最低限やっておかなければならないのが、あなたのお母さんやご兄弟を含め、お父さんからその意志を全員に伝えてもらい、各人の意見を聞くことです。その必要性の有無も含め、徹底的に話し合いをし、全員の了解を取っておかなければ話になりません。全員の納得と了解をもらった上で、遺言書の作成に取りかかる必要があります。
更に念には念をという意味では、遺言書の作成に加えて「遺留分の放棄」の手続きをしておくと安心です。これらはいずれもお父さんが元気なうちにしておかなければならないことですから、できるだけ早いうちに着手することをお勧めします。
ただ、法定相続人ではない孫に遺贈する場合、相続税が2割加算されますので注意が必要です。もし相続税が発生するならば、納税資金に不足はないか(相続した金融資産、保険金などを充てます)確認しておいて下さい。
なお、重度の知的障害を有する者は相続の権利がないというようなことが言われる場合がありますが、民法上は、全ての者が行為能力(法律行為をするのに必要な精神的判断能力)の有無に関わらず平等に相続権を持っています。誰にでも相続の権利は認められているというわけですが、実際に相続をし遺産分割をする際に印鑑証明が必要になり、役所へ行って印鑑登録をしようとした場合、その法律行為(登録)をするのに必要な判断能力を備えていないのでできないと言われるケースが多いようです。つまり、公的な本人確認の術を持てないことになります。もちろんこの場合の役所の対応は合法的なものですが、そうなると残された方法は禁治産者宣告を受けて、後見人を通じて印鑑登録をするしかありません。し