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起こさない形でどのように補給するかが問題となるであろう。また一定の目的に利用するのに適した海洋生物を作り出すために,バイオテクノロジーが利用される分野も大きいであろう。海洋生物に関しては,陸上生物について長い間行われてきたような品種改良はほとんど行われていない。バイオテクノロジーによって優れた性質を持つ海洋生物の新品種を作り出すことは十分考えられることであり,その効果は大きいと思われる。

非生物資源では,海底の鉱物資源の中で比較的開発が進んでいるのは沿海の海底油田であろう。しかし全般的にいって,海底の鉱物資源については,まだその存在も資源量もほとんど知られていない。もちろんこれまでは深海の海底資源については,その探索技術も採掘技術もほとんど存在しなかったから,その利用は不可能であった。しかし現在は海底の鉱物資源を探索し採掘する技術を開発することは可能であろう。これまでに知られている鉱物資源埋蔵量は,ほとんど陸上のものに限られていたのであるから,それに海底の分を加えることができれば,それは大きく増加するかもしれない。

海水に含まれる多くの化合物や元素もまた海洋資源の一つである。人類は古くから海水中の塩化ナトリウムを利用してきた。しかし海水中にはその他にも多くの化合物や元素が含まれており,その濃度は低くても全体としての量は極めて大きい。その有効な利用法を開発することは重要であろう。

更に海洋はエネルギー源としての面を持っている。海流や潮汐は大きなエネルギーを含んでいる。貿易風や季節風も,海洋に注がれた太陽エネルギーから生じている。そのエネルギーはまだごく一部が潮汐発電に使われているに過ぎない。しかし黒潮の持っているエネルギーにしても極めて巨大であり,それをうまく利用できれば,日本の必要とするエネルギーの大きな部分を賄うことができるともいわれている。海面で太陽発電を行い,台風を発生させるようなエネルギーを直接吸い取って利用することなども含めて,海洋のエネルギーを利用する技術を開発すべきであろう。

もう一つの海洋の役割は,地球上の自然環境を調整することである。それが地球上の気候と気象に大きな影響を与えていることは,例えばいわゆるエルニーニョ現象によって東アジア,東南アジアから南部アフリカに至る広い地域の気候が大きな影響を受けることによっても示されている。最近人類が排出する温室効果ガスによる地球温暖化が問題とされているが,人間が大気中に年々加えるCO2の量は,海洋と大気の間を循環しているCO2の量の数十分の1に過ぎないといわれる。しかも人間が排出するCO2のうち大気中にとどまってその濃度を上げるのはその2分の1に過ぎず,残りの2分の1は海洋に吸収されるのであろうといわれている。従ってもし海洋と大気中のCO2のバランスが僅かに変化しても,大気中のC02の濃度は大きく変わってしまう可能性がある。またC02の濃度上昇によってどれだけ気温が上昇するか,またその影響が世界各地の気候にどのように影響するか,あるいはどの程度海面上昇が起こるかなどということは,すべて海水の温度がどこでどれだけ上昇するかに懸かっている。これらの点がほとんど解明されていないことが,地球温暖化問題にまつわる不確実性の大きな要素となっている。

海洋の状態に関する科学的研究を大きく推進することは,地球環境問題にかかわる不確実性を減少させることによって,それに対応する有効な対策を採用することを可能にし,結果として大きな利益を生むであろう。

環境としての海洋に関するもう一つの問題は海洋汚染である。そうして今後の問題は局所的な海域における汚染にとどまらず,海洋全体の汚染,いわば海洋の環境容量の問題である。陸上からの排水や廃棄物が海洋全体にどのような汚染をもたらすか,それを防止するにはどうしたらよいかを考えなければならないであろう。海洋全体が汚染されてその水質が変わってしまうというような事態が生ずるのは,遠い先のことと思われるが,しかし高度技術の発達は,同時に環境破壊力の拡大を意味する。とくに海洋資源が,あるいは空間としての海洋が,より高度に利用されるようになれば海洋汚染の危険性も増大することに注意しなければならない。

資源の面からも環境の面からも,海洋について単なる自然科学的関心からだけでなく,人間生活に対する影響という観点から解明されなければならない課題は多い。

ここで重要なことは海洋の研究と,海洋に関する技術の開発には,国際的な協力,あるいはむしろ全人類的な観点が要求されることである。海洋の大部分は公海として,誰のものでもない共有のものと考えられてきた。これを大陸棚の占有権や200海里,海域漁業権のような観点によって,諸国家の間に分割するのは愚かなことである。海洋が全地球の自然環境に大きな影響を及ぼす点だけからしても,それを一部の国々が自分の利益のために占有し自由にすることが許されてはならない。またその資源や可能性が,企業の私的利益のために使われてしまうことも正しくないであろう。海洋の研究開発は世界的な共同事業として行われなければならないし,そこから得られるものは全人類の福祉向上のために役立つものでなければならない。

 

 

 

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