19世紀末から始まった第二次産業革命(重化学工業化)では、ドイツ・ソ連・日本のように、先端産業において先発産業国を急速に追い上げる後発産業国があり、これら後発国と先発国との対立が二つの世界大戦の基底にあった。しかし現在進行中の第三次産業革命(情報化)においては、先進民主主義国を先端技術で追い上げることの出来る後発国が出現する可能性は皆無に近い。この点からも、先進民主主義諸国の優位を維持することは、経済的にだけでなく軍事的にも比較的容易であり、先進民主主義諸国の同盟関係が健全に保たれる限り、今後長期にわたって、大戦争を回避することは十分可能であろう。それが先進民主主義国のみでなく、全世界的にも望ましいことは言うまでもない。
先進民主主義国の安全保障上の役割として、第二に、後発諸国の持続的産業化に協力し、それらの諸国が少しでも多く、また少しでも早く、先進民主主義国の仲間入りをするよう務めることである。旧東欧諸国の一部(とくにヴィシグラード諸国)はすでにそのような状態に近づいている。東アジアでも、韓国や台湾そしてアセアン諸国は、有望な候補国であろう。ソ連・中国そしてインドのような大国が先進民主主義国化した場合、国際関係がいかに好ましい形に変わりうるかを想像すれば、この第二の役割の重要さは明らかであろう。
しかし中国はもとより、ソ連で民主主義体制が安定的に確立し、またインドが経済的に先進国の水準に達するのは、仮に全てがうまくいったとしても、長い時間を要するであろう。多くの新興国についても事態はあまり変わらない。したがって第三に、民主化と繁栄を達成できずにいるそれらの諸国をいたずらに敵視することなく、彼らが根強く抱いている先進民主主義国にたいする不信感・猜疑心・恐怖感を軽減し、国際社会の建設的な一員として行動するように誘導する必要がある。そのためには先ず、相互理解を促進し、信頼関係を醸成する措置を、二国間の枠組みでも多国間の枠組みでも、また国連を始めとする国際機関においても、あらゆる機会と場を利用して、採用することが必要である。そのイニシアティブは、優位にある先進民主主義国側が、新興国のプライドを傷つけることのないよう慎重に配慮をしながら、発揮しなければならない。また第二の役割で触れた新興国の持続的成長を可能とするような、経済援助、投資、(環境保護技術を含む)技術移転、市場機会の提供など、広い意味での経済協力を積極的におこなうことは、先進民主主義国と良好な関係を保つことが、自分たちの利益でもあるということを、新興国が理解し、現存する国際秩序の維持を国益と考えるようになるためにも重要である。