しかし強調しなければならないことは、第二と第三の役割を果たすためにも、第一の先進民主主義諸国間の緊密な協力が不可欠だということである。西側同盟が崩壊するようなことになれば、国際関係は著しく流動化し、不安定となり、新興国のみでなく先進民主主義国でさえ、不安に駆られて、最悪事態に備えようとし、権力政治と軍拡競争が不可避となってしまうであろう。冷戦終結の意義を過大に評価し、ソ連の脅威の喪失のみに着目し、西側同盟の持っている決定的に重要な役割を軽視したり、また経済的対立や文化的相違に目を奪われ、先進民主主義諸国が共有する利益を失念する過ちは、あくまで避けなければならないのである。そのためには先進民主主義国自身が、政治的・経済的安定と社会的亀裂の克服を達成しなければならない。しかし低成長と高齢化とが進行し、しかも家族や地域社会といった伝統的コミュニティの結合が弛緩してしまった先進民主主義国において、それを成し遂げることは、決して容易な課題ではないのである。
以上
