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共通の脅威に対抗するための自発的同盟であり、冷戦期を通じて軍事協力がかってない規模とレベルで進んだ。また戦後の総需要管理政策と福祉国家化、技術革新、耐久消費財の普及等により、1970年代初頭まで、西側諸国は未曾有の高度成長と生活水準の向上を実現した。その結果西側諸国の経済的結びつきも曾ってないレベルに達した。その結果、西側諸国の間には、紛争と軍事力によって解決することが考えられないような国際関係が広く生まれるようになった。冷戦中から中・ソ対立が生じ、冷戦終結とともに東側同盟が呆気なく崩壊したのにたいして、西側同盟が共通の脅威の喪失にもかかわらず存続している決定的理由はここにある。永く続いた冷戦期における密接な協力(とくに軍事的協力)の積み重ねは、先進民主主義諸国の関係に質的変化ももたらしたのである。

また経済的に先進的な諸国が、自由民主主義という価値観と体制とを広く共有するようになったのも、第二次大戦後の国際関係の大きな変化であった。西側同盟の自発性はここに由来する。また先進民主主義国においてはナショナリズムが変質し、国境をこえたアイデンティティが生まれ始めている。この傾向は、ナショナリズム発祥の地である西ヨーロッパにおいて最も顕著である(もっとも、西側同盟のリーダーであるアメリカは、その歴史的由来と地理的条件と超大国という地位とにより、先進民主主義国の中で例外的にナショナリズムがなお強い国である)。

 

3. 冷戦後の安全保障における先進民主主義国の重要性

先進民主主義国は、これからの世界の平和と安定の維持に、とりわけ重要な役割・地位を占めている。アメリカの軍事的優位は、今後も長期にわたって続くであろうが、産業化とナショナリズムの世界的普及という現実を考えれば、「一つの覇権国による平和と繁栄(覇権安定hegemonic stability)」は今後に期待できない(アメリカが経済的にも圧倒的優位にあった1950年代まででさえ、その覇権はソ連圏には及ばず、その意味で全世界的ではなかった)。しかし先進民主主義諸国が全体として協力すれば、その影響力はあらゆる面で圧倒的である。したがって覇権安定に替わる安定と繁栄の国際システムは、先進民主義諸国の協力以外に在りえないであろう。

すでに指摘したように、冷戦期の協力と経済的繁栄の結果として、先進民主主義国の間での戦争は、考えられなくなっている。また先進民主主義国は現存する国際秩序の最大の受益者であり、その意味で基本的に現状維持国家である。先進民主主義諸国の間で、事実としてこれまで戦争が一度も生じていないことは、決して偶然ではない。またNATOや日米同盟に代表される第二次大戦後の西側同盟が、主権国家体制成立後(つまり前近代の古典帝国秩序崩壊後)のもっとも安定した友好・同盟関係である理由もここにある。

これからの世界の平和は、西側同盟の結束に決定的に依存しているのである。

 

 

 

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