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冷戦後の安全保障における先進民主主義国の役割

佐藤誠三郎

 

1. 20世紀の基本的趨勢

20世紀の国際関係を規定する趨勢としては、観点によってさまざまなものがありうるが、冷戦後の安全保障との関連で特に重要な趨勢として、(1) ナショナリズムの世界的普及と先進民主主義国におけるその変質、および(2) 産業化の普及と質的向上を挙げることができる。

ナショナリズムの世界的普及・高揚がもたらしたものは、第一に帝国主義の時代の終焉であり、帝国の解体であり、独立国家の激増であった。ポスト帝国主義の時代は、第一次大戦による「民族自決」原則の正統化とともに開幕し、第二次大戦を契機とする西側植民地帝国(oversea's empires)の崩壊によって支配的となり、そして冷戦の終結とともに生じたソ連という「陸続きの帝国」(land empire)の解体によって完成された(中国がLast Empireとして残っているといえなくはないが)。ナショナリズムの大波が世界を覆った結果の第二は、紛争(第二次大戦以後はとくに地域紛争)の頻発である。植民地から独立した新興国の多くは、旧宗主国と他の諸帝国との力のバランスで引かれた、その意味でそこに生活している人々にとっては恣意的な国境を継承した。このような新興国が国民国家となるのは容易ではなく、国境紛争や内乱が生じがちであった。

20世紀前半まで、産業化に成功した国は、西欧、北米、日本、ロシア等に限られていた。二つの世界大戦は、これらの諸国間の対立の帰結であった。しかし第二次大戦後、とくに冷戦後は、(1) 帝国主義の時代が終わり、先進国から直接投資を受け入れても植民地化される危険がなくなったこと、(2) 共産主義の失敗により、指令経済が産業化のモデルとして不適切なことが明白になったこと、(3) 国境を超えた経済活動が盛んになり、標準化した技術に基づく産業分野の生産拠点が比較的簡単に移動できるようになったことなどにより、産業化への離陸は以前より容易となり、新興工業国家(NICs)が群生するようになった。そしてそれは経済力の急速な変化と経済競争の激化をもたらすと同時に、国境を超えたカネ・モノ・ヒトの移動を活発にし、相互依存関係を全世界的に深めた。

 

2. 冷戦の意義

冷戦は、東西間の軍事的・イデオロギー的・体制的な厳しい対立であった。しかし核兵器の存在により、核の笠の掛かっている地域(東西両陣営のどちらかに属する主要国)にとっては、「熱い戦争」が有効に抑止された「永い平和」(long peace)の時代でもあった。とりわけ西側同盟は、ソ連の軍事力によって強制的に統合された東側とは異なり、ソ連という

 

 

 

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