日本財団 図書館


ただ、民主主義諸国の間ではパワーバランスは根底的には非常に重要ですけれども、これはまたご批判があるのかもしれませんが、民主主義諸国の中のパワーバランスということを考えると、通常のバランス・オブ・パワーの理屈から考えると、ちょっとアメリカが強過ぎるのです。そうすると、今はどうやって解釈したらいいかというと、通常のバランスということからいうと、ほかの民主主義諸国はアメリカに対して対抗同盟をつくるという発想が出てくる可能性はあると思うのです。古典的な国際政治の考え方からいうとそのようになる。ただ、そういう発想をすることは、今ほとんどないような感じがするのです。ですから、パワーバランスを考えるというのも、相手がどういう国かということを考えてからパワーバランスを考えるという傾向があるのではないかという気がするのです。アメリカがちょっと強過ぎるから……1つは到底かないっこないからくっついてもしようがないということはあるかもしれません。

 

○岡崎 ドイツに対するイギリスとフランスの核バランスというのは効いていると思います。

 

○佐藤 私は、要するにバランス・オブ・パワーの考え方が有効なのは、第2圏の国々に対してであると思います。第1圏の間、つまり先進民主主義国の間でも、英仏がドイツに対して核が効いていると岡崎さんおっしゃいましたけれども、私は効いていたということだと思います。今もそのように考えている人がいるかもしれませんけれども、実際はドイツに対して核を使おうという可能性をまじめに考えている人はいないのではないかと私は思っております。

フランスなどは、むしろ地中海の北側のイスラムの急進主義の国を現在では主として考えているのではないかと思います。これは小異の方です。

ただ、それでは、先進民主主義国の相互の間で全く自分の国力について無関心かというと、そんなことはないです。貿易摩擦その他や、国家が積極的に、政府が積極的に資金や人材を集めて技術革新をやらなければいけないとアメリカも日本もヨーロッパも考えているというのは、やはりそういうものがそれぞれの国の豊かさの基礎にあり、影響力の基礎にあると考えているからで、その限りにおいてはある種のバランスがある。しかし、それは伝統的な第2次世界大戦までのようなバランス・オブ・パワー、あるいは現在の中国やロシアに対するバランス・オブ・パワーとは決定的に違う。それをごちゃごちゃにしてしまうといけないのではないかと私は思います。

 

○モデレーター 今の問題は、田中さんの議論を借りて申し上げますと、要するに、先進民主主義諸国にとって安全保障問題の大部分は第2圏域との関係だということで、やはり第1圏としては、第2圏との関係を考えた場合に、絶えずあらゆる緊張関係に対する備えがなければいけないというのが基本的な考えだろうと思います。

したがって、第1圏内において、あるいは先進民主主義諸国間において事実上戦争の可能性が非常に乏しいという議論と、備えておかなければいけないという議論とは十分整合性があるのだと考えていいのではないでしょうか。

 

○会場 1つ質問させていただきたいと思います。

この先進民主主義諸国の役割ということでいろいろ聞かせていただきながら考えたのは、この先進民主主義諸国という中に日本が入っているのかどうかという点です。要するにアジアにおいてNATOのような多角的安全保障関係について、同盟的なものはなかなか難しいとしても、岡崎先生のいわゆる集団安全保障的な形で異なった意見なり体制同士も、もうちょっと突っ込んで安全保障のことを話し合える仕組みというものはやはり必要ではないか。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION