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では、今、第3次産業革命がアメリカや日本を中心にして起こっていますが、追いかけるような国、つまり、中国なら中国が、情報技術においてアメリカや日本を抜くか。それはあり得ないです。22世紀になるとどうかわかりませんけれども、予見し得る将来にあってはあり得ない。せいぜいあり得るのは、既にスタンダライズされた、その意味では、オールドファッションなテクノロジーを使って、安い労働力を使ってやるというのが限度であります。情報技術の面で先発国であるアメリカや日本にチャレンジするような後発国はない。その点では、第3次産業革命というのは、それほど危険な要素を国際関係にもっていない。これが、私が世界について考える場合の第3番目の点です。

それから、今度は小異を拡大します。私も岡崎大使や田中先生と同じように、アメリカが非常に重要だということについては十分認識しておりますし、軍事力において、つまり、田中さんの言葉でいうと、第2圏域の国々に対応するために絶対に必要な能力という意味での軍事力において、アメリカを追い越すような国が予見し得る将来にわたって現れるはずがないと考えております。特に、最先端の情報技術が軍事技術において占める比重がどんどん高まってまいりますから、アメリカの軍事的優位は揺るがないだろうと思います。

ただ、アメリカというのは相当変わった国で、相当厄介な国だと思います。まず第1は、先進民主主義国の中で、最もナショナリズムの強いのはアメリカです。ヨーロッパや日本ではナショナリズムは随分弱くなって、ナショナルアイデンティティーが動揺していますが、アメリカはそういう意味では若い国です。ナショナリズムがかなり強い。

2番目は、なお悪いことに、アメリカは非常にユニバーサリスティックな国で、アメリカンウエーが世界で一番いいと思っています。だから外国人は馬鹿でなく、かつ邪悪でなければ必ずアメリカ的なやり方を受け入れるものだという確信をもっているアメリカ人がいっぱいいます。だからアメリカ的な方法を受け入れないのは、邪悪であるか愚かであるかどっちかである。邪悪なやつはやっつけなければいけないし、愚かなやつは教えなければいけないということになるわけです。

それでいて孤立主義の伝統がある。外国が四の五のいうのはまっぴらだ。ローマ法王庁に始まって、ソ連から今のWTOに至るまで、国際機関や外国がアメリカに影響力を与えることを断固拒否しているという傾向があります。自分たちは世界を必要としない。世界は我々を必要としている。そういう誇りに満ちた国であります。

そういう国が断然強いのですから、これは相当厄介な国です。だから、アメリカをいかにして西側同盟のリーダーとして盛り立てていくかということは相当の高度の工夫が要るところで、日本の役割は決して無視できないというのが、私がその次に強調したい点です。

それとの関連でいいますと、日本人のアメリカに対する態度は、どうもバランスを失していることが多い。具体的な例を挙げますと、クリントンがことしの1月に外交教書を発表いたしました。そこに日本のことが1行も書いていないのです。東アジアでいうと中国と北朝鮮が重要であると書いてある。日本の某新聞は、これをみてジャパンパッシングだといったわけです。ばかを言っちゃいけないというのです。要するに、日本は特にアメリカにとって心配すべき要因がないから触れなかっただけです。

では、クリントンの教書の中で、イギリスについて、フランスについて、ドイツについて触れているか。触れていないことについてイギリス人やフランス人やドイツ人が心配しているかというと、全然心配していないわけです。

 

 

 

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