もう少し日本もアメリカと基本的な価値観を共有する世界有数の大国としての自信をもって、いろいろ問題のあるアメリカをいかにして盛り立てていくかという態度をとるべきではないかというのが、その次に私が申し上げたい点であります。
それから、それと関連いたしますけれども、これは岡崎大使が既におっしゃったことで、私は全く賛成ですが、先進民主主義国以外の大国の関係というのは、伝統的な関係、つまり、19世紀にイギリスの外交を指導したパーマストンがいったような「永遠の敵も永遠の味方もない。永遠なるものは国益だけである」――国益が永遠であるかどうかというのは議論の余地がありますが――そういう非常にマキャベリアンなその場その場の関係であって長続きしない。大部分のロシア人にとっては、中国というのは潜在的な脅威のナンバーワンだ。中国にとっても同じことで、アメリカがナンバーワンかもしれませんが、同じことがいえる。相互不信の上に立って、本当は足で蹴飛ばしてやりたいけれども、お互いに損だから握手しているというのが実態です。それはインドと中国との関係も同じことだろうと思います。そんなことに一喜一憂する必要はないと私は思います。注意深く分析する必要はありますが、それで動揺したりするのは全く愚かなことであると私は思います。
最後に、私は、先進民主主義国の中の問題が相当深刻ではないかと思います。これは田中さんもテロとか犯罪という新しいセキュリティとの問題が先進民主主義国で起こっていると指摘されましたが、私は、その原因はそう簡単ではない、非常に深刻な問題があると思います。先進民主主義国は国家がうまく機能して、市場がうまく機能して、すべて世は事もなしと、そこまで楽観的に田中さんおっしゃったわけではないが、あえて小異を拡大するとそういう趣旨のことをおっしゃったのですが、私は先進民主主義国で日本を含めて、これまで秩序を守ってきた基礎になっていたコミュニティーが解体していると思うのです。それは地域的なコミュニティーも、家族も、伝統的な宗教団体も、職場に対するロイヤリティーも日本の場合は解体し始めている。
そういう秩序が根本から動き始めているときに、先進民主主義国は、必要な場合に戦う意思をもつだろうか、あるいは同盟をきちんと保つための意思を持ち得るだろうかというのが1つの大きな問題です。さらに、それが犯罪の多発化とか、麻薬とかいう問題を引き起こしている。
チャリティー・ビギンズ・ホームという言葉があります。ほかの人に慈善行為をする前に自分の家族の世話をしなさいという意味ですが、セキュリティー・ビギンズ・ホームということがあるいはいえるかもしれない。自分の家のストリートでだれかが殺されるような状態で、はるかかなたのウガンダあたりの安全についていうのはちょっと見当違いではなかろうかという議論がアメリカに――実際セキュリティー・ビギンズ・ホームというのはアメリカ人がいった言葉ですが――起こっている。それにプラスして少子化です。少子化と高齢化が進んでいる。
ある人口学者の計算によると、このまま少子化が日本で続くと、22世紀のある段階で日本人は一人もいなくなるそうです。一人もいなくなるということは現実的にあり得ないかもしれませんが、つまり、これは国家の存亡の危機であります。きのう発表された経済企画庁の国民生活白書でも主要テーマとして取り上げられていましたけれども、晩婚化し、未婚化し、子供をつくらないという傾向が日本で顕著にあらわれています。