ですから、話が少し極端になり、バランスを失し、非常識になるかもしれませんが、その点をあらかじめご容赦いただきたいと思います。
まず、国際情勢の大きな変化から申し上げます。その点で第1に申し上げたいのは、帝国主義の時代は決定的に終わったということです。第1次世界大戦以後は、アフターインペリアリズムの時代であるというのは、外交史の世界では通説なのですが、実際問題としては植民地政策はみんな残っておりました。だから、日本が大東亜戦争というキャッチフレーズをつくったことにある種の説得力があったのは、アジアにはそういう植民地がいっぱいあったからであります。
ところが、第2次世界大戦、特に冷戦が終わって、ついにソ連帝国まで崩壊した。中国という最後のエンパイアがあるではないかといわれますけれども、中国には若干エンパイア的なところがありますが、一応帝国の時代は終わりました。よくアメリカのCNNやハリウッド映画が世界的にドミナントの影響力をもっていることを指して、アメリカの文化的帝国主義といいますが、これは言葉のあやです。みんながCNNをみない、ハリウッド映画などくそくらえと思っていれば影響力などないのです。帝国主義というのは、そんな生易しいものではなくて、嫌だと思ってもわあっと押さえられてしまうのが帝国主義の特徴ですから、文化的帝国主義というのは言葉のあやにすぎないと私は思っております。それが第1です。
第2は、これと密接に関係しますが、産業化がしやすくなったことです。18世紀の後半にイギリスで産業革命が起こってからほぼ200年近く、少なくとも150年ぐらい、世界で産業化に成功した国はほんのわずかでした。西ヨーロッパと北アメリカと日本、それから特殊な形で産業化したロシア、せいぜいそんなところです。
ところが今は、投資環境をよくして、外資を導入して、初等教育や中等教育に多少力を加えれば、産業化することは、そんなに難しくなくなりました。昔は、産業化というのは、特異な文化的背景をもち、特異な人種的背景をもっていなければできないと思われていたのですが、それは大うそで、イスラム教圏でも産業化ができるという状態になりました。つまり、産業化がしやすくなった。これはもうもとへは帰らない。これが第2点です。
第3は、しかし、もっと大切なことは、今、第3次産業革命が起こっていることです。第1次産業革命は、これまで人間がつくっていたものを、より早く、よりうんとつくるというのが基本でありました。第2次産業革命は、これまで人間がつくっていなかったようなスチールとか石油化学とか、ディーゼルエンジンに、電気に、石油でした。第3次産業革命は、ご存じのとおり情報革命です。第1次産業革命のときは、それをリードしたイギリスが世界を支配した。完全に支配したわけではありませんけれども、世界に支配的影響力をもった。パックスブリタニカがこの時代です。第2次産業革命のときは、第1次世界大戦と第2次世界大戦が起こってしまったのです。これはなぜかというと、新しい重化学工業が起こったわけです。重化学工業において、後発国が先発国のかなりの部分を追い抜いたわけです。ドイツがそうです。こうなると、つまり、先進技術において、最も先進的な技術において、後発国が先発国を追い抜くような事態が起こると、パワーバランスに極端な変化が起こってくるのです。これが不安定になって第1次世界大戦の引き金を引く。そして、第2次世界大戦の引き金を引くことになったと私は思うのです。事態はもっと複雑にいろいろな要因が絡んでいますが、思い切ってえいやと簡単にしてしまえば、そういうことだろうと思います。