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私はこれを第1圏域といったり、佐藤先生からは、この間ご批判をいただきましたが、新しい中世の進んでいる地域といって新中世圏などといっていますけれども、ここは政治的経済的自由主義が制度として成熟し、そういう実態をもっている。そこで、国家というものは、こういうとちょっと褒め過ぎではないかといわれるかもしれませんけれども、余りにもよく社会的機能を果たし過ぎているために、ほとんど見えなくなりつつある。なくてもいいのではないか。それから、市場も、国家が機能を果たしているために、市場が非常にいろいろな社会的機能を果たすようになっている。だから、国家でなくてもやれることが非常に多くなっているというようなことが起こっています。

この地域にある国は、ほとんど成熟した民主主義国であります。その間の経済的な相互依存関係というものも非常に深まっているし、生活水準も非常に高い。その結果、この部分の中では、国家間の戦争というのはほとんど考えにくいような状況になっていると思います。このシンポジウムのタイトルに、「多元的安全保障共同体」という言葉が書いてありますけれども、まさにそういう状況が出現している部分だと思います。

ただ、世界がこのような部分だけであるわけではないということに注目しなければいけないと思います。一方の極には、これと全く反対に、国家が相対化するなどというよりは、国家が事実上崩壊してしまったという部分、第3圏域といったり、混沌圏といったりしていますが、そういう部分がある。ルワンダとか、つい先ごろまでザイールといっていた国であります。ここでは、最低限度の秩序すら存在しないために、市場も機能しない、国家も機能しない、経済成長は起こらない、国家を軸とした忠誠心は存在しない。だから、国家が公のものとしては観念されない。部族やその他の集団の間で紛争が絶えず起こる。難民、飢餓、疫病、驚くべき自然破壊が行われるというような状況が起きている。

この第1圏域と混沌圏の間には、かなり広大な地域で、社会としての秩序は最低限満たされているけれども、政治的経済的自由主義は、制度としても、イデオロギーとしても十分成熟していない。政治的に民主化は達成したけれども、経済的にはまだ十分市場経済が機能していない。あるいは、市場経済を一生懸命追求しているけれども、政治的には権威主義体制であるという部分がある。ここは、国際関係という観点からみると、国家の役割というものが非常に強い。

逆説的な言い方かもしれませんけれども、国家も市場も十分社会的機能を果たしていないために、かえって国家の役割とかナショナリズムの役割が強調される。事実として、治安が保たれない。そのために、治安維持のための国家の役割が強調される。それから、事実として国境を守るというのが困難なために国家の軍事力の意味が強調される。それから、民主主義が機能していないために、国家の指導体制の正当性を維持するというような忠誠心は、自然には生まれようがないからナショナリズムを強調する。我々は皆同じ民族だ、ほうっておくと外からやられるぞということしかレジティマシーを維持できない。その結果、国家は武力を行使するのは当然であるという部分(第2圏域)であります。

世界の安全保障の問題を考えたり、日本など先進民主主義国の果たす役割を考える場合は、この先進民主主義国というのが、今、私がいった意味でいうと、第1の部分に属する国々だということです。そうすると、この先進民主主義国にとって安全保障問題というのはどういうことになるかというと、第1は、まずみずからの第1圏域の中で起こるかもしれない安全保障問題にどう対処するか。第2は、第2圏域との関係でみずからの安全保障をどうするか。それから、第3圏域との関係で安全保障をどうするかということだと思います。

 

 

 

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