ですから、これは1つの決着がついた問題でございます。ところが、まだその決着がついたということを認めない議論がいろいろございますので、その点だけははっきりさせたいと思いまして、このペーパーを書きました。
その意味で、結局、一番重要なのは、このテーマを引用すれば、先進民主主義国間の協力でございます。ですから、過去2年間の動きの中で、何が一番大事かと申しますと、まずはことし7月のNATOの拡大であります。これで冷戦が終わった後の整理が一応つきました。これも冷戦後、ロシア中心主義と東欧中心主義の2つの議論がその間で非常に闘わされました。東欧中心主義というのは、簡単に申しますと、戦争に勝ったのだから、冷戦に勝ったのだから、勝った果実をすぐ手に入れろというものです。東欧を全部NATOに入れてしまえば境界が確定しますから、これらをとってしまえという話なのです。
それから、ロシア中心主義というのは、冷戦があったのは、ロシアが共産党だったからだというものです。だから、ロシアが民主主義になればすべて平和になる。ロシアの民主化が一番大事なのだと主張します。そうすると、西側が余り厳しいことをしますと、ロシアの中の親西欧民主主義勢力が弱くなる。だから、NATO拡大のような露骨なことをしてはいけないのだということでございます。
ですから、NATO拡大は、特にポーランド、ハンガリー、チェコにとっては非常に大事なことでございますし、国内の元共産党グループと親西欧グループの間の力関係にさえ影響が及ぶ問題なのです。現に、NATO加盟が延びている間に、ほとんどの国で旧共産党勢力が強くなっております。その過程で、何とか早く入れてほしいという圧力が強かったのですけれども、今度のロシアの大統領選挙まで待てと、先延ばしを続けて、ついにエリツィンが大統領になって、これ以上待てないというところで、ことしの7月に決まったわけでございます。
その過程は、確かにいらいらさせられるものでございましたけれども、その結果、ロシアももうあきらめて、ここまで待ってもらって、ここまでいろいろ尽くしてもらったのだからしようがないということで、一応承認する形になっております。その意味で、これはアメリカ外交の成功だと思います。つまり、NATOの拡大と同時に、ロシア国内における民主化勢力と共産勢力との闘いを、共産側に有利にさせない形で実現した。これは、私などは早く入れてしまえという議論でございましたけれども、アメリカの民主主義外交というものの勝利だろうと私は思います。
そして、もう1つ、この2年間で一番大事なのは、昨年4月の橋本・クリントン会談であります。これは先ほど申し上げましたけれども、冷戦が終わって、日米摩擦が非常にひどくなって、あるいは日米同盟を薄めてしまうという議論も多々ある中でナイ報告が出まして、それをまとめて橋本・クリントン会談になり、ガイドラインまでもっていったわけです。ここで、極東における先進国協力もこれで固まりました。この2つが固まったということが、今後の一番大きな安定要素と私は思います。
現にというか、今度の中国の共産党大会のコミュニケの中で、安全保障問題については2つのことをはっきり唱つております。1つは、同盟の拡大反対であり、もう1つは、同盟の強化反対であります。つまり、NATOの拡大、日米同盟の強化の2つが中国にとって一番困るのだということを言っておりまして、それだけに具体的な意味があったというわけであります。