まず、皆様から向かいまして左、岡崎久彦元駐タイ大使でございます。外務省の情報調査局長、サウジアラビア大使、タイ大使等を歴任されました後、外務省を退官され、国際問題、安全保障問題の著名な評論家として大活躍をされております。多数の著作も発表されており、そのご活躍ぶりは、皆さんよくご承知のとおりでございます。
続きまして、真ん中が田中明彦東京大学東洋文化研究所助教授でございます。国際関係理論、東アジアの国際政治をご専門とされており、理論と実証を兼ね備えた我が国屈指といわれる専門家でございます。昨年出版されました『新しい「中世」』という著書は、ポスト冷戦の国際関係の新しい見方を提示したものとして江湖の評価を得ているわけでございます。
最後になりましたけれども、佐藤誠三郎世界平和研究所研究主幹です。東京大学や慶応大学で教鞭をとられました後、現在は埼玉大学大学院及び政策研究大学院大学の教授としてご活躍であり、我が世界平和研究所の研究主幹として研究所の研究活動の元締めをしていただいております。
本日のシンポジウムでは、岡崎先生、田中先生、佐藤先生の順序で約10分ずつお話をいただき、その後、3人のパネルのメンバーの間で最初のプレゼンテーションについての討論をしていただき、最後に30分程度、会場の皆様からのご質問を受けた形で討論をお進め願いたいと思いますので、活発なご意見、ご質問をちょうだいできればと思います。
それでは、前置きはこれぐらいにいたしまして、早速パネリストの方々のご意見を伺いたいと思います。最初に、岡崎さんからどうぞ。
○岡崎 こういう立派な方のお集まりの席でお話しできることを、光栄に存じます。
今、大河原大使からお話がありましたとおり、特にこの1、2ヵ月、大国間の動きというのは目立っております。この1、2ヵ月と申しますより、去年の4月からのこの1年間、つまりクリントン訪日、数週間後のエリツィン訪中、ことし7月のNATO拡大、クリントン・エリツィン会談、今度の江沢民の訪米、それから橋本さんの訪ロ、これで戦後の国際秩序の大きな流れは大体決まってきたような状況にあると思います。
ただ、そのお話を申し上げる前に、理論的な枠組みだけご説明したいと思います。お手元の紙にも書いてございますので、詳しいことを申し上げる必要はないと思うのでございますけれども、最近、集団安全保障体制と同盟の間に議論の混乱があるのでございます。私は、題をいただいたときに、まさにこれが問題になるかと思って来たのでございますけれども、出席者のお名前を拝見しましたら、それを混乱したような方はここにはおられない。ですから、批判する対象がないのでございます。ただ特定の新聞の名前をいっていいかどうかわかりませんけれども、朝日新聞の論説などは、すべては多国間の集団安全保障にもっていかなければいけない、全部そういう論説になっております。また、そういうことをいう学者も大変多いのでございます。ですから、それに対しては、一言だけ理論的な批判はしておく方がいいと思いまして、このペーパーをつくりました。
実は、この集団安全保障体制と同盟というのは、本来、全く違うものでございます。キッシンジャーの「ディプロマシー」では、180度方向が違うものだということを書いてございます。同盟というものは、言葉に出す出さないは別にしまして、仮想敵というものがありまして、その力に対して同盟を組んで、その力によってバランスをつくる。バランスをつくった結果、平和を維持する。