まず、NATOにつきましては、ことし7月にマドリードで開かれたNATO首脳会談において、懸案でありました加盟国の東欧への拡大について、ポーランド、チェコ、ハンガリーの3ヵ国が新たに加盟することで合意が成立いたしております。しかしながら、引き続いてNATOの加盟を希望している中欧諸国が存在する一方、NATOの東方拡大を脅威と考えるロシアの反対など、多くの問題が残っております。
また、欧州におきましては、EU通貨統合の試みが進められておりますが、単に地域的拡大の問題だけではなく、EUがさらに結びつきを深めていった場合に、NATOとの関係がどうなるかなど、欧州における先進民主主義諸国の協力関係には複雑な要素も残っているように思われます。
一方、日米同盟につきましては、かつてソ連の脅威に対する日本列島の防衛という目的をもっておりましたけれども、ソ連の消滅に対応して、冷戦後の新しい時代における日米同盟の役割という側面がクローズアップされてきているのが最近の情勢だと思います。それは、昨年4月の橋本首相とクリントン大統領による日米安全保障共同宣言において明確に示されましたし、それをフォローアップするものとして、ことしの9月には新しい日米協力のガイドラインが決定をみております。今後、日米の信頼関係の強化をいかに継続して進めていくか、そしてまた、その信頼関係をアジア全体にいかに拡大していくかということが課題であるように思われます。
そのような先進民主主義諸国間の協力関係をいかに周辺の地域にまで拡大していくかを考える場合には、先に申し上げたような米中首脳会談、日ロ首脳会談の開催などを手掛かりとして、中国、ロシアといった先進民主主義国ではない大国との関係をどうするかという問題が最も重要であろうと思います。
中国は、経済改革、開放政策によりまして急速な経済発展を遂げ、ますますその存在感を増しております。経済発展に伴う相互依存関係の増大は、アジア及び世界の安定にとってプラスと考えられる一方で、経済力を増してくる中国が、将来どのような国になるのかが重要な問題になってまいります。仮に、軍事大国化するということを想定しますならば、中国をいかにして世界の枠組みに取り込んでいくかということが大切になってまいります。
ロシアは、ソ連邦が解体した際の混乱状態から、いまだ完全には脱し切っておらず、政治的にも経済的にも不安定な状況にありますが、アメリカに次ぐ世界第2位の核兵器保有国であることに変わりはなく、混乱をいかに克服していくかという課題に直面しております。将来的にも、アジア地域における安全保障に対し、大きな影響力を有することになると思います。
さらに広い意味で安全保障を考えますと、相互依存関係の深まりから、環境、エネルギー、貧困、麻薬、テロ、エイズなど、一国だけでは解決のできない地球的な課題も山積しており、これらの問題の解決にどう貢献するかという先進民主主義諸国の役割が問われていると思われます。
本日は、このような問題につきまして幅広くご議論をいただきますが、討論に先立ちまして、本日の3名のパネリストの方々について、既に皆さんはよくご存じのこととは思いますけれども、恒例でございますから、簡単にご紹介させていただきます。