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中平幸典 元大蔵省財務官 講演会

「アジアの通貨危機について」

平成10年2月12日、於ホテル・オークラ

 

IMF、世銀の役割

第一次世界大戦後と第二次世界大戦後の一番大きな違いは、前者では大戦後に世界恐慌が発生し、世界のブロック経済化が進み、4分の1世紀もたたないうちに再度世界大戦が起こってしまったのに対し、第二次世界大戦後は、様々な経済危機が発生したが、世界経済はそれを乗り越えて既に半世紀がたったことだ。それにはIMF、世銀が大きな役割を果たしたと評価できる。

新しいタイプの危機

そして、従来からグローバルな問題として、?東西両陣営の対立、?南北格差の拡大という大きな問題があったが、1980年代にそれが大きく変化してきた。

?ベルリンの壁崩壊とその後のソ連邦解体による冷戦の終了と?1980年代後半から南の国にエマージング・マーケットが誕生したことだ。

?は規制緩和やコンピューター等による技術革新が原因だが、先進国の民間資金が大量に流入したことによっておこった現象である。

ところが、これにより途上国の経済危機として、従来の輸入増により公的債務が増大しすぎるという危機と違った新しいタイプの危機が発生するようになった。

それは、資本流入が逆流することによって発生する「信頼の危機」というべきもので、?突発的、?規模が大きい、?波及する、という特徴をもつ。

メキシコ通貨危機

新しいタイプの危機の第一号が1994年末から発生したメキシコ通貨危機である。

アメリカが中間選挙後で有効な対策がとれなかったことや欧州がアメリカに反発して対策に消極的だったことから対応はもたついた。

そのため、アルゼンチンに飛び火し、またその後の円高、マルク高、ドル安の引き金となった。しかし、幸いなことにIMFの支援もありメキシコは1年で成長路線に戻った。

アジアの通貨危機

メキシコは借入が公的セクター、アジアは民間セクターという違いはあるが、2つの危機は基本的には同じパターンのものである。アジアの危機のきっかけとしては次の3要因が考えられる。

まず、?市場が過熱しすぎたことに対する反動という市場経済のもつ循環要因がある。次に、?高い成長率の下で隠れていた財政収支の赤字や不良債権の問題が、成長率が低下することにより表面化したこと。更に、?アジア各国でとられていた為替政策(ドルペッグ制)の矛盾や金融監督が不十分であったことである。

更に、アジア諸国が政治的安定を欠くことで、確固たる政策をとれないだろうという為替投資家の心理を生んだことも要因だろう。

今回もタイの対応は当初うまくいっていたのだが、政治問題とからんでバーツが暴落してしまった。

対応策

従って、アジア通貨危機への対策として一番重要なことは投資家を安心させることである。そのためには、?迅速な対応、?IMFとの政策合意により当該国において原因除去の政策をとること、?従来よりはるかに大きな国際的金融支援パッケージを用意することが必要である。

 

 

 

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