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ナルな組織の建設的な意味での緊張関係、クリエーティプ・テンションといったものが同時に重要になってきて、地域経済組織はいいか悪いかというような単純な二分法の世界ではなくなっています。ただ、もちろん、今のところ建設的な緊張関係があるといっても、それが永遠に続くという保証はこれまたないわけで、その意味ではWTOのようなマルチラテラルな機関の存在感をいかに高めていくか、これは極めて重要な問題であるということは間違いないと思います。

もう1つ、今のところ各地域においてブロック化させなかった1つの大きな役割を、私はアジア、特にAPECが果たしたと思います。つまり、この地域は世界の中で抜群に成長率が高く、ヨーロッパやアメリカの固からみても、NAFTAやEU域内の負易の伸び率よりも、むしろアジアとの負易の伸び率の方が高かったという事実があります。したがって、アジアの高成長というのが、世界の経済がブロック化するのを阻止するグルーというか、接着剤の役割を果たしたというわけです。そのアジアが、ご承知のように、今1つの大きな問題に見舞われているということではないかと思います。

これは、先ほど申し上げたグローバライゼーションの本質と極めて密接に絡む問題なのでありますけれども、私はこういった世界の大きな政策の問題を眺めていて、1つのキーワードが思い浮かぶわけです。そのキーワードは、アラン・ブラインダーというプリンストン大学の教授が、彼の大変有名な教科書の中で使っている言葉なのですけれども、「市場の逆襲」という言葉です。マーケットが逆襲するという言葉、つまり我々はマーケットの力を利用して、今日の市場経済化によって、さまざまな経済発展の例を随所にみることができるわけですけれども、逆にマーケットの原則を損ねるようなことを少しでも残しておくと、その1つの部門にものすごいマーケットの圧力がかかって、つまり、制度や政策の失敗、問題点を暴き出すような役割を果たすということではないかと思います。これはタイの経済が典型ですけれども、資本を自由化して、外資の取り込みによって投資を促進して経済発展しました。これは間違いありません。したがって、マーケットフレンドリーなエコノミーによって経済発展を遂げてきました。

ところが、気がついてみると、1カ所だけマーケットメカニズムが働かないところがありました。それが外国為替市場でした。つまり、パーツをドルにリンクさせるということは需給原則を反映させないわけですから、そういったところにちよっとした矛盾が生じると、そこに非常に強いマーケットの圧力がかかって、その問題点を暴き出してしまうのです。これは、ある意味で香港ドルにも当てはまっていることです。

 

 

 

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