国民経済計算体系(SNA)と環境・資源勘定(ENRA)の統合のためのデータの現状と必要なデータ:タイの場合
タイ国家経済社会開発庁
開発計画専門官 ダムロンサク・チンダクン
[要 旨]
タイが過去30年の経験から学んだことは、成長を指向した政策は均衡を欠いた発展につながり得るということである。天然資源は著しく枯渇し、環境も非常に悪化している。我々を取巻く環境は、経済と社会という2つの環境に分類することができる。経済環境はエコノミストたちが対象にしているものだが、社会環境の方は、経済的な価値や価格はないが、むしろ道徳的価値を持つものに関係することが多い。
均衡のとれた発展とは、生活水準が改善されることばかりでなく、自然保護の改善も意味している。しかし、一般的にどのような発展の成果についても、半世紀近くも前に初めて導入された国民経済計算体系(SNA)によって計られれている。この体系では、発展の成果を純粋に経済環境の点からのみ捉えている。社会環境のほうは無視されているのである。
今やSNAも、環境問題に無関心ではいられなくなったことは明らかである。最新のSNA(1993年)では、それらの問題を、環境・資源勘定(ENRA)といった方法で盛り込むことが試みられている。この例としては、環境・経済統合勘定体系(SEEA)がある。SEEAでは、いわゆる「生態学調整後国内生産」という、非常に必要性の高い指標を提供することができる。
タイではSNAの概念を採用しているが、現在ではENRAが必要なことも認識している。ENRAを作成するに当たっては、多くの機関によりいろいろな試みがなされてきている。しかしながら、森林資源や天然ガスなど特定の関心事項にだけ努力が払われているという問題点もある。タイでENRAを作成する上で責任を持つべき立場にある最適の機関は、国家経済社会開発庁である。これは同庁が国民所得推計を行っているからである。特に、同庁には、国民経済計算の分野に十分な基礎的素養を十分に持った職員がいるので、他の機関では多くのステップが必要なのに比べて、同庁の職員の場合は、国民経済計算のいかなる修正もこれまでの仕事を一歩前進させるだけで行うことができる。