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人間開発のための統計の課題と展望:マレーシアの場合

 

マレーシア クバンサン大学 マレーシア・国際研究所長

イシャク・シャリ

 

[要  旨]

はじめに

人間開発では経済成長を必須のものと捉えているが、公正さ、持続可能性及び国民の能力向上(ピープル・エンパワーメント)にも重点が置かれている。実際、公正さというのは、人間開発のパラダイムの中心にくる力強い概念である。機会利用の公正さの決め手となる重要な要素の一つは、所得分配のパターンである。

マレーシアでは公正の問題、とりわけ貧困と所得の不平等が、特に1969年の民族紛争と1971年の新経済政策(NEP)の実施以来、かなりの注目を集めている。絶対的貧困や所得の不平等の発生を減少させる点では進展がみられているが、既存の開発計画でも依然として絶対的貧困の根絶や所得の不平等の改善に努力の重点が置かれており、国内におけるあらゆる民族の間でより広範に生活水準の向上の恩恵を分け合うことができるようになっている。

本論文は、マレーシアで利用可能な所得統計の性格とその問題点を見直そうとしたものである。1971年から1995年までの間のマレーシアにおける所得の不平等と貧困水準の傾向について簡単に述べてから、所得データの主な情報源と当該データに関する問題点について触れる。またこの国における人間開発を発展させていくために、その要素と過程を理解しようとする努力の障害となるような関連データ間のばらつきについても述べている。

 

貧困水準と所得分配の動向

マレーシアでは、1971年から1990年までの間に、公正さを保ちつつ成長を達成する上でかなりの進歩がみられた。この間に経済は年率6.7パーセントの成長をみせ、貧困率も減少し(1970年の52.4パーセントから1990年には17.1パーセントに低下)、それに所得の不平等の格差も縮小した(ジニ係数は1970年の0.502から1990年の0.446まで低下)。また国民の生活水準も改善されている。

しかし、1991年から1995年までの間、経済は平均年率8.7パーセントという高い成長率を示したが、絶対的貧困の減少に伴って所得格差が改善されるということがなくなってしまった。それどころか所得の伸び率の違いのため、所得の不平等が拡大し、ジニ係数は1990年の0.445から1993年には0.456に、そして1995年には0.464まで上昇している。このような展開は、タイや中国を含めアジアの他の諸国における所得格差の拡大に関する新たな証拠とも一致しているようだ。マレー

 

 

 

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