3)考察
NAP scoreは、末梢血中の成熟好中球のNAP活性の程度を臨床医学的に明らかにするために、塗抹標本をアゾ色素法を用いた酵素細胞化学法でNAP染色することによってNAP顆粒を染め出し、NAP陽性顆粒の密度測定からNAP活性を半定量的に算出したものである。日本では朝長法が汎用されきた。今回、我々が対照実験として行った塗抹標本での朝長法によるNAP scoreは、270.77±32.01あり、朝長らが報告している基準値に良い一致を示した[1,27]。しかし、正常人の末梢血においてでさえ、全くNAP顆粒を含まない0型の好中球からNAP顆粒が細胞質に隙間なく分布しているV型の好中球まで、多種多様の好中球が混在していることがわかる(図-7A)。又、アゾ色素法で染め出されるNAP顆粒は、時として大変粗大な顆粒状であったり、又、細胞質が瀰漫性に陽性を示すことに遭遇した。
近年、我々は、光顕レベルのNAP scoreとは別にヒト好中球の細胞内顆粒に興味を持ち電顕酵素細胞化学を用いて研究してきている。非刺激時の正常好中球においては、NAPのほとんどは細胞内の特殊顆粒とは異なる小顆粒状の細胞内小器官中に存在することを明らかにしてきており[19]、その結果と比較するとアゾ色素法からの結果と大きな隔たりがあった。我々は、電顕レベルで観察しているNAP顆粒と、アゾ色素法で観察される光顕像の何れが正しい姿を現しているのか検討したいと考えた。今回、HalbhuberらのCe-H202-DAB法[11]を応用してやることにより、光学顕微鏡上でより電顕像に近いNAP顆粒をとらえることができ、これこそがより生体に近い様式であると考えられた。
セリウム法を用いて非刺激時の正常好中球においてNAP染色をしてみると、微細な顆粒が細胞質にほほ均一に分布する好中球細胞が大部分であり、NAP顆粒の活性度による好中球分類でも大部分が?W型でありその他の型がほとんど観察されなかった(図-8)。このことは、正常基準値にほとんどばらつきがないことから、疾患によってNAP活性が変動した際その変化を鋭敏にとらえることができることを示している。グルタールアルデヒド固定-セリウム法→Ce-H202-DAB-Ni発色法によるNAP scoreは373.69±12.47であった。