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【IV】へき地高齢者の免疫能に関する研究

-T細胞の増殖とアポトーシスに及ぼすCeramideの役割-

 

岡崎仁昭 自治医科大学アレルギー膠原病学

簔田清次 自治医科大学アレルギー膠原病学

平田大介 自治医科大学大学院

佐藤英智 自治医科大学附属病院アレルギー膠原病科

上村健  自治医科大学大学院

 

1. 研究目的

 

加齢に伴い免疫機能が低下し、易感染症、自己免疫現象が増加することは、ヒトおよび齧歯類において既に多くの報告がなされている。免疫機能の低下は、主としてT細胞に起こり、T細胞の各種の抗原刺激に対する増殖能の低下やヘルパーT細胞サブセット(メモリーT細胞の増加)の変化としてとらえられる。老齢T細胞の増殖能力の加齢に伴う低下は抗原受容体(TCR)やCD28を介する細胞内シグナル伝達系の障害やT細胞のアポトーシスや分化増殖に関わるFas(CD95)の機能低下が一義的な免疫機能低下の原因であることが示唆されている(J.Exp.Med.182:129,1995)。ごく最近、FasやCD28を介する細胞内シグナル伝達がsphingomyelin cycleを利用していることが明らかにされた。我々はマウスの実験系でCD28は増殖シグナルのみでなく、一定の条件下ではアポトーシスシグナルを伝達しうることを報告した。即ち高齢者のT細胞では、sphingomyelin cycleの活性化障害があり、そのセカンドメッセンジャーとして機能しているCeramide(セラミド)の産生低下が予想される。そこで外因性にセラミドを添加することによって、老齢T細胞やFas遺伝子の異常で発症するMRL-lpr/lpr(lpr)マウスT細胞の増殖能やアポトーシスの正常化が起こるか否かを検討することを目的とする。
さらに最近開発された化学構造的にセラミドに類似している新しい免疫調整剤であるFTY720の作用についても同様に検討する。予備的実験では、in vitroでセラミドとFTY720とがT細胞ハイブリドーマのアポトーシスを誘導することを確認しており、抗Fas抗体類似作用を示した。セラミドまたはFY720を投与することにより、老齢T細胞とlprT細胞との抗原刺激に対する増殖能の改善と正常なアポトーシス誘導に伴う、T細胞サブセットの是正化等が期待される。本研究はセラミドの高齢者に対する免疫調節薬として、また自己免疫疾患の治療薬としての可能性を検討する基礎的な研究である。

 

 

 

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