NOはグアニレートシクラーゼを活性化し,細胞内cGMP含量を増加させ血管平滑筋を弛緩させる。NOはさらに血管平滑筋細胞増殖抑制や血小板,白血球の凝集接着を抑制することが知られており,動脈硬化の発症進展に関連していると考えられている。最近,Wangらは白人においてecNOS遺伝子型4a/aが喫煙によるCADの危険度を上昇させると報告した。しかし,今回の我々の研究では,ecNOS遺伝子型4a/aの頻度は極めて低く,ecNOS遺伝子型4a/a+a/bで検討してみたが,CADとの有意な関連は見いだせなかった。また,喫煙者のみで検討しても同様であった。
一方,ACE遺伝子多型とCADとの関連は従来白人及び日本人における研究による結果と同様であった。レニンーアンジオテンシン系は動脈硬化の進展に重要な役割を果たしていることが知られている。アンジオテンシン?Uは血管収縮と血管平滑筋増殖作用を持つ血管作動物質である。RigatらはACE/DD遺伝子型の患者の血漿ACE活性はACE/II遺伝子型のものより高いことを報告している。PowellらはACE阻害剤により血管傷害後の平滑筋細胞の増殖抑制作用を報告している。そこで我々は,ACE遺伝子型の違いにより冠動脈でのアンギオテンシン?Uやブラジキニンの作用を介して冠動脈硬化や心筋梗塞の発症に影響があるのではないかということで今回の研究を行った。
CADは遺伝的背景と環境的背景により形成される多因子疾患であると考えられる。CADは喫煙,高血圧,糖尿病,高脂血症などによりそのリスクが相加的に増加することが知られており,遺伝的背景と環境的要因について両面から検討することが重要である。例えば,アンジオテンシノーゲン遺伝子型TTとACE/DD遺伝子型の組み合わせはCADのリスクを高めていることが報告されている。しかし,今回のecNOS遺伝子型の検討ではそれ単独でも有意な危険因子とならず,ACE遺伝子多型によるリスクにも有意な影響を及ぼさなかった。今回の検討では症例数も少なく,今後の更なる検討が必要であると思われる。