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しがあり、神への信頼がありました。

しかしヤコブは父を偏し、兄を裏切り、その怒りから逃れるためにハランに逆もどりして行くのです。希望のない、不安な孤独な荒野の旅でした。ヤコブはベエル・シェバを立ってハランへ向かいます。途中、とある場所に来たとき、日が沈んだので彼はそこで一夜を過ごすことにし、そこにあった石を取って枕として横たわりました。それは当時のアラビア人の習慣であったといわれています。しかし追われて旅するヤコブにとつては恐るべき、不安な夜であったに違いありません。

その夜、ヤコブは夢を見ました。旧約聖書では、夢は神の啓示を受ける媒体と考えられています。天涯孤独と感じていたヤコブに、神が近づき、傍らに立ち、語りかけられたというのです。それが有名な「ヤコブの梯子」と呼ばれる夢でした。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使たちが、それを上ったり下ったりしていたというのです。それは天と地を結ぶ梯子であり、下から上へ昇って行くための普通の梯子ではなく、神が上から下へくだしたもうた梯子でした。

聖書は、主が傍に立ってこう言われたと述べています。「わたしは、あなたの父祖アブラハムの神、イサクの神、主である。あなたが今横たわっているこの土地を、あなたとあなたの子孫に与える。あなたの子孫は大地の砂粒のように多くなり、西へ、東へ、北へ、南へと広がって行くであろう。地上の氏族はすべて、あなたとあなたの子孫によって祝福に入る。見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこヘ行っても、わたしはあなたを守り、必らずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」(創世記28・13‐15)。

かつて人間は神のごとくなろうとして、レンガを焼いてバベルの塔を築き、その頂きを天に届かせようとしました。しかしその試みは挫折させられ、混乱が生じたのでした。(創世記11章参照)。

しかし、神は今、罪を犯し、兄を欺いて逃れて行く弱いひとりの人間ヤコブのために天からの梯子をかけて下さったのです。ヤコブは天の門が開かれたと感謝しています。ヤコブには、地上の父の家の門は閉ざされていました。彼は父の家から逃げて行く途中にありました。八方が塞がり、絶望の暗闇に陥れられたように思われた時、しかし神は天の門をヤコブのために開いてくださったのでした。

眠りから覚めたヤコブは、こう告白しています。「まことに主がこの場所におられるのに、わたしは知らなかった。ここは、なんと畏れ多い場所だろう。これはまさしく神の家(ベテル)である。そうだ、ここは天の門だ。」(創世記28・16‐17)

それはヤコブにとつて新しい時の始まりでした。そして彼はやがてイスラエル(神が支配する)という名を与えられる者になるのです。

(ふなもとひろき・関西学院大学教授・宗教総主事)

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