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渡辺玲子さんの魅力

立野健三

 

玲子さんのヴァイオリン演奏を初めて聴いたのは、1987年4月、玲子さんがジュリアード音楽院のコンテストで2年連続で優勝し、同学院のオーケストラと共にエイヴリー・フイッシャー・ホールで記念演奏をした時です。曲目はパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番。玲子さんはオーケストラに埋もれることなく、しかも確実な技巧の演奏を披露し、緊張感がありました。静まり返った会場に響き渡る第1楽章のカデンツァに、わたしは家内と思わず顔を見合わせてうなずき合い、演奏後には拍手の嵐に巻き込まれました。

私はその時既に在米30年、多くの名演奏を聴いてきましたが、玲子さんの素晴らしい演奏にはいたく感動し、日本からの若い女性ということもあったのでしょうが、涙が頬を伝って止まらず、人目を気にして拭うのに苦労したことを覚えています。

それから5年後の1992年、スラットキン指揮のセントルイス響2日間の定期演奏会に玲子さんが招かれ、同じくパガニーニのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。その時は第1楽章が終わったとたんに万雷の拍手が巻き起こってしまったのです。翌日も同じでした、そして最後のスタンディング・オヴェイジョンの情景もまた感激的で忘れられません。

その後も玲子さんの演奏は精彩を増す一方で、私はアメリカをはじめ、日本、パリ、ロンドン、プラハ、香港、北京等多くの玲子さんの演奏会に行っていますが、聴くほどに彼女のヴァイオリンに魅惑され、虜となって今日に至っているのです。

 

そこで私なりに玲子さんの音楽の魅力を分析してみました。

1.天性の優れた音感と音楽性に伴う厳しい訓練が、極めて卓越した精緻な左手と、ダイナミックに動く右手となってヴィルトゥオーゾ的な条件を満たす。つまり基礎がなくして真の魅力は生まれてこない。玲子さんの畏敬するハイフェッツ、ミルスタイン、オイストラフ然り、また玲子さんの恩師で今年97歳で他界されたフックス先生も然りで、彼女は本格的な薫陶を受けられたと言える。

2.玲子さんの演奏は、リズムとテンポがそれぞれの音楽形式を通して本格的に正鵠を得ており、音楽が生き生きとして躍動的であり、時にはアグレッシヴであり、それがまた西洋的香気に包まれていると感ぜられる。

3.玲子さんの音楽は時に鋭く、強く、カラフルであたかもヴァン・ゴッホの絵に見る天才的な色彩を捕らえた表現を連想させるかと思えば、アンドリュウ・ワイエスのやや暗い精緻な筆使いによる静寂の世界を思わせる表情を感じさせるなど、表現力は広くて深い。4.作曲家とその作品に関する知識が深いために、バランスのとれたプログラム作りができ、またあまり演奏されない曲を積極的に紹介していくことの大事さを知っている。

 

玲子さんは日本のみならず海外の新聞にも高い評価を得ています。一部をご紹介しますと“溢れる音色と安定感、言葉に表せない魅力が曲全体を通し優美に輝いた”(パリ・フイガロ紙)、“圧力に負けずに非常な優雅さと明瞭さをもったフレーズを音の甘味を備えて演奏した……レイコ・ワタナベの名前を覚えよう”(ロサンゼルス・タイムス)、“レイコは素晴らしいテクニークをもって聴衆を眩惑しに町にやってきた……近年最も忘れ難いシーズン・オープンだった”(シラキュース・トリビューン)などと絶賛しています。

世界に羽ばたく天馬(ペガサス)のような玲子さんを応援する趣旨の“ペガサスの会”が一年前に発足し、今春ニューヨークにも支部ができました。我々は玲子さんの音楽に関する造詣の深さに舌を巻いています。10月にはサントリーホールでリサイタルも行われますのでその広いレパートリーをぜひ多くの方に鑑賞していただきたいと思っています。

(たつのけんぞう・渡辺玲子を応援する会ペガサスの会会長在NY)

 

 

 

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