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5. 地方分権化と地域戦略としての社会資本整備

 

(1) 地方財政の危機

 

1)累積する地方債

地方財政は1950年代前半、70年代後半に続いて、戦後3回目の危機に直面している。今回の財政危機の2つの大きな特色としては、?@短期間で借金の急激な累積が起こっていること、?A地方単独事業の増大をまかなうために地方債を増発したことがあげられる。

自治体は、原則としてその年度の歳入で行政サービスを運営している。しかし、大規模な建設事業を行なう場合や災害復旧事業などのように、その年度の歳入だけではまかないきれない場合、あるいは今の住民だけでなく将来の住民も費用を負担するほうが公平であるような大規模な事業を行なうときには、地方債を発行して資金を調達することができる。債券の引受先としては、政府の特別会計のなかの資金運用部資金(94年度の地方債発行額のうち39.2%)と簡易保険資金(同10.7%)、市中銀行(同21.1%)と公営企業金融公庫資金(同14.1%)がおもな引受先である。したがって、金融市場で売買される地方債はごく一部で、大半を引き受けているのは国である。

94年度決算では、歳入総額に占める地方債の構成比(地方債依存度)は16.8%にのばり、90年度から5年間続けて上昇している。拠年度の地方債残高は約92兆8,600億円である(図表8-14)。これに、企業債残高と交付金借入残高も合わせると、約124兆7,600億円にのぼる。

普通会計のなかの借入金残高の中身では、「一般単独事業債」の割合がもっとも大きい。地方単独事業とは、地方が国から補助金や負担金を受けずに、一般財源(地方税・譲与税・交付税など)と地方債によって地方が独自に実施する事業である。その内訳は、半数が道路・橋梁・都市公園・区画整理などである。

地方単独事業という名称を聞くと、地方が主体的に事業を実施しているように聞こえる。しかし、その背後にはマクロ的な要因、つまり1980年代後半の「財政再建と内需拡大」という国の財政運営が横たわっている。この方針のもとに、国は国庫補助金の整理をすすめて財政を健全にする一方で、地方は内需拡大のために地方単独事業を増やすことを求められた。実際、80年代後半から、国は地方単独事業を増やすために、地方債や交付税による財政上の支援を拡大・多様化してきた。これは、地方にとって財政的に非常に魅力ある措置といえる。なぜなら、自治体が単独事業を増やせば、事業を拡大した分の元利償還金は全額、地方交付税として戻ってくるという起債枠が設けられたためである。

以下では、地方交付税制度のしくみと地方債との関係について解説する。

 

2)地方交付税制度による財政格差の是正

地方公共団体は、地方交付税交付金制度という各地域の財政力の格差を是正するために特定の国税の一定割合を地方公共団体に配分する枠組みのなかで機能している。交付税の財源となるのは、国税である所得税、法人税、酒税のそれぞれ32%、消費税の29.5%、たばこ税の25%である。このように総額が決定された地方交付税は、その94%が普通交付税に、6%が特別交付税にあてられる。普通交付税は、毎年度、基準財政需要額が基準財政収入額を超える地方公共団体に交付される。特別交付税は、地方公共団体の特別な事情にもとづいて交付される。

基準財政需要額は、財政需要を行政項目ごとに経常経費と投資的経費に区分して計算した経費の合計額である。この経費は、

基準財政需要額=単位費用×測定単位の数値×補正係数

 

 

 

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