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すでに図表8-4(169ページ)でみたように、主要8港でも港湾収入は財政支出の2割しかまかなっていない。これは地方公営企業法では港湾事業の独立採算を求めながら、港湾法においては港湾管理者が料金収入を確保する道を十分にひらいていないためである。そのため、港湾管理者は一般財源からの繰入れや地方債の発行によって支出をつぐなっている。内田[1994]は、港湾管理者の財務状況を企業会計方式により試算した数値をもとに、特定重要港湾と重要港湾(計133港)では、港湾施設使用料と役務使用料などの港湾収入により管理費をまかなっている港湾が77港(全体に占める割合57.9%)にすざないこと、ならびに管理費が港湾収入を上まわっている港湾が56港(同42.1%)にのぼることを指摘している4

港湾施設の利用については、一部の水域施設や外郭施設の利用をのぞき、港湾管理者が条例などを制定し利用料を徴収することができる。ただし、港湾が果たす機能について、単なる輸送手段の一部と考えるか、あるいは地域産業振興のための基盤と位置付けるかによって港湾管理者の会計処理が異なり、その結果が料金徴収の考え方のちがいとなってあらわれている。わが国の港湾では、無収益事業は一般会計で官庁会計方式により処理し、収益関連事業(埋立事業ならびに荷役機械、上屋、倉庫、貯木場など)は特別会計で公営企業方式により処理するという二本立ての会計システムを採用する港湾が大半である。これらの港湾において、港湾施設は行政財産として、むしろ国からの給付としてとらえられているため、必要とする経費(運営管理費)をつぐなう程度の料金が適正な料金と考えられているようである。ということは、港湾管理者に対して港湾事業すべてに企業のもつ経済性(独立採算性)を求めること自体に無理がある。また、大規模な資本投下を必要とし、その財源調達を国からの補助金、企業債、一般会計からの繰入れなどの外部の資金に頼らざるをえない港湾事業は、構造的な欠損を抱えてしまう。このようにして生じた欠損は、経営の非効率を示すというよりは、むしろ地方公営企業に期待されている公共の福祉を増進するために、社会全体で負担しなければならない対価とみるべきであろう。

 

注4 内田亨[1994]『港湾管理者の財務(1)』、『港湾』、3月号58-59ベージ参照。

 

(2) 財政補填によるモラルハザードの危険性

 

公営企業の経営について、営利を追求する普通法人と比べて大きく異なる点は、資金調達を企業債の起債か、あるいは外部補助に頼らぎるをえないということであろう。収入としては施設の使用料がおもなものであり、資金調達の方法としては企業債、地方公共団体の負担金、一般会計からの繰入れ、そして他会計からの長期借入れなどがある。ここで、仮想的な貸借対照表を使って、一般会計等からの線入れが、港湾事業も含めた公営企業の経営と管理者(地方公共団体)の財政にどのような影響を与えるのか解説する。

地方公営企業の貸借対照表を考えてみると、企業債による収入は、それが施設の整備等に関するものである場合には自己資本に計上され、運営費の欠損を補填する場合には流動負債に計上される。一般会計からの線入れは自己資本に計上され、他会計からの長期借入れは固定負債に計上される。これらの資金が貸借対照表の貸方に計上されると、同じ金額が資産として借方に計上される。

 

 

 

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