図表3-4をみると、繊維についてはASEAN地域が飛び抜けた成果(売上高経常利益率の売上高・仕入比率弾力性=5.129)をロジスティクス活動によってあげていることがわかる。これは日本のASEAN現地法人の調達・販売システムが利益率の向上に最も寄与していることを意味している。繊維に関して第2位の優れたシステムはNIES現地法人ではなくて、EU・ヨーロッパ現地法人によって構築されている。両者の差は弾力性でみて2.029と1.941というようにわずかなものであるが、この結果は、先にみた図表3-3において、EU現地法人の繊維業の利益率が概ねNIES現地法人の利益率を凌駕していた状況によく整合している。
一方、一般機械,電機・自動車の3業種の利益率については、NIES現地法人の売上高・仕入比率弾力性が最も高い。したがってNIES現地法人のロジスティクス活動が利益率の向上に最も貢献していることがわかる。これに対してASEAN現地法人のロジスティクス活動は自動車を除きかなり低迷しているし、その自動車でさえもNIES現地法人のみならずUS・アメリカ現地法人の後塵を拝している。したがって、図表3-3においてみたASEAN現地法人の相対的に高い利益率は、繊維業を除き、優れたロジスティクス活動に基づくものではなくて、低い労働コストを利用した労働集約的生産方式にあると推定できよう。
ところで、日本のアメリカ現地法人のロジスティクス活動は、一般機械・電機・自動車の3業種の利益率に対して第2位の寄与度を発揮している。この結果を先に図表3-3にみたアメリカ現地法人の利益率の回復状態と照合すれば、優れたロジスティクス活動と利益率の回復の間に一定の因果関係を設定することができるであろう。しかし、このような推論に対しては、アメリカ現地法人の企業規模の拡大や設立時期からの経過年数7のほうにむしろ原因があるとの主張のほうが広く行きわたっているように思われる。そこで、この点を次に取り上げる。
まず、業種にかかわりなく企業規模が一般的に地域の利益率の向上にどの程度寄与するのかをみたところ、図表3-4に示しているように、この効果は確かにASEAN、NIESおよびEUに設立された現地法人については認めることができるとしても、US・アメリカ現地法人については通説とは逆の結果が得られている。アメリカ現地法人には、何らかの管理上の不経済が生じている可能性があるのである。アメリカ現地法人のロジスティクス活動は、むしろこのような管理上の不経済を克服するための手段として用いられている可能性が高いとみられるのである。
それでは次に、企業の設立時期はどのように作用しているのであろうか。図表3-4で用いられている設立時期は、設立して6年以上経過した企業数の割合(%)で測定している。これについても、ASEAN、NIESおよびEUに設立された現地法人は、たとえ弾力性の値は極めて低いレベルであるとしても、設立時期の古い企業ほど利益率が高いという結果が得られている。しかし、アメリカ現地法人についてはこのような通説は満足されていないのである。
このようにアメリカ現地法人においては、企業の規模や設立時期のいかんによって利益率が急速に回復してきたのではなくて、基本的には調達と販売をベースとする企業ロジスティクス活動の向上こそが回復を支える大きなポイントであると考えられるのである。
注7 データソースは注5に同じ。