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1985年のプラザ合意以降の急激な円高は、今まで以上に大きな影響を繊維産業に与えた。近代化の担い手であった繊維産業は、すでに韓国・台湾など、アジア近隣諸国の成長によって輸出市場を奪われる状況にあった。加えて円高によってコスト競争力がさらに低下し、世界市場における地位も大きく低下した。中・下級衣料品を中心に大幅に輸入が増加し、87年には他の欧米諸国同様、わが国も繊維輸入国に転じ、わが国の繊維産業も構造的に輸入を組み込んだ供給体制に移行している(図表2-16、次ページ)。

現在、わが国繊維メーカーは、差別化商品や商品の開発によって輸入品との棲み分けを図るとともに、需要の増加が見込まれるアジア地域への進出を活発化させている10

 

注10 小畠孝治郎『繊維貿易と製品ビジネス』では、わが国の機維貿易の変遷を整理するとともに、繊維取引の特徴や素材取引との差異について実態を踏まえた議論を展開している。

 

(2) 繊維産業の特色と今後の動き

 

1) 産業特色

?@繊維産業の規模

1994年の繊維産業出荷額は約11兆円11で製造業全体の約3.6%を占めている。一方、事業所数では約5万、従業員数では約94万人と全雇用者数の約9%を占めており、この点でも繊維産業が労働集約的な産業であることがわかる。さらに、下請の家内縫製業者や流通・販売に従事している人数を加えると繊維産業に関係する人数は、推定ベースで300万人程度にもなるといわれており、繊維産業は国民経済においても大きな役割を果たしている。

 

注11 「工業統計表」の従業者4人以上の事務所に関する統計による。

 

?A複雑な繊維産業の構造

繊維産業の構造は極めて複雑である(図表2-17、69ページ)。最終製品に至るまでの工程が多段階にわたっており、各工程ごとや扱う素材ごとに業界も細分化され、そのうえ、それぞれの段階ごとに流通・販売業者関与していることが業界構造の複雑さを増している。

一般的に、糸を作り出す化学繊維製造業や紡績業が川上業界、次いで生地の段階である織布・編み物業や染色業が川中業界、最後の縫製業界が川下業界と呼ばれている。さらに紡績は紡績業者が、「織布は機屋が」というように、糸から繊維製品に完成するまでの製造工程を各専門業者が担当しているのが一般的である。たとえば、衣服が作られる過程をみると、数種類の繊維原料を糸にして、それを織って布を作り縫製するか、直接編み物にして服となり、その間に染色や各種の加工が行なわれる。

?B繊維産業の零細性・地域性

川上業界の合繊・紡績業は大企業が中心であり、とくに合繊は必要とされる技術水準が高く設備にも多額の資金を要する装置型産業であるため、参入企業も限られてきた。しかしながら、川中から川下業界にかけては、総じて労働集約的であり資本も少なくてすむことから、中小零細企業が数多く存在している。事実、94年の「工業統計表」によると、繊維産業には約5万の事業所があるが、そのうちの約8割が従業員29人以下の零細事業所となっており、中小零細企業がわが国繊維産業の主な担い手となっているのである。

 

 

 

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