第2章 荷主企業の物流ニーズ―家電・繊維のケース―
1. はじめに
本章では、グローバルな競争が激化するなかで、関西における地域経済の大きな柱となっている家電および繊維産業について、その産業動向・企業のおかれている状況、課題を整理し、そのうえで物流の変化をみる。最後に、これを支える港湾・物流のあり方を考察してみたい。
(1) わが国産業の動向:概観
バブルの崩壊と円高の進展などによって、わが国産業を取り巻く環境は1990年代に入って大きく変化している。環境変化の影響はプラス、マイナス双方にわたっていると考えられるが、いずれも今後のわが国産業の方向を決める大きな要素である。90年代におけるわが国産業の展開の特徴を整理すると次のようになる。
まず第1の展開としては、製造業における生産拠点の海外移転の加速があげられる。90年代の特徴は、低コストの生産拠点確保を目的としたアジアヘの投資が顕著となったことである。近年では、アジアに展開した日本の製造業は、その動きをますます多様化させている。また、海外に移転したユーザー産業に追随し、素材や部品を提供する企業の現地生産も増加し、アジア域内での製品流通・部品調達が活発化するなど、物の流れにも変化が生じている。
第2の展開としては、国内での産業空洞化の進展がある。比較劣位の産業が国際競争力を失って海外に流出するのであれば、産業高度化の流れと考えることもできる。しかし、現在起きている現象は、電子・電機など比較優位性のある産業が急激に海外シフトして生産性の劣る非製造業の国内産業に占めるウェイトが高まっていることであり、産業高度化の一過程と単純にとらえることはできない。
第3の展開は、リストラの進展である。バブル崩壊後の内需の低迷に加えて、急激な円高が大きな内外価格差を生み、わが国の企業は鉄鋼産業や自動車産業など国際競争にさらされている産業を中心に、事業戦略の見直し、生産の一層のコストダウン、間接部門の合理化などのリストラクチャリングに注力した。またアウトソーシングの進展、中小企業ではグループ取引関係の見直し、主要取引企業の海外移転への対応といった課題への対処も求められることとなった。これら製造業を中心としたリストラの進展は、雇用環境改善の遅れを招いてはいるものの、96年度下期にみられた景気の緩やかな回復過程に寄与していたと考えられる。
第4の展開は、価格破壊の動きである。95年7月に1ドル=80円を超えたことに象徴されるように、円高の進行により低価格化が進行した輸入品が、高まりつつあった消費者の低価格志向に合致し、耐久消費財を中心に輸入浸透度(内需に占める輸入品の割合)が急速に上昇した。この割安な輸入品の流入に、ディスカウンターに代表されるような流通構造の変化が相まって、価格破壊と呼ばれる物価が急速に下落する現象が発生した。