日本財団 図書館


 

だったり、集中力に欠けていたこともありました。こんな時の彼女はあまり良くありません。しかしこれは、このように映画を撮ろうと思った時点で私が直面しなければならないことだったのです。今私が思うのは、彼女が満足させてくれたかではなく、私が何か統一的な首尾一貫したものができるかどうかです。もしこれが達成されていれば満足です。われわれが共感できる人物になっていれば。彼女は、最初私が長期間彼女を使いたがらなかったことを知っています。彼女や周囲にも、彼女は役に適当ではないと言っていましたから。言わば私が彼女を女優として発見したので、彼女には率直に言えるんです。彼女は私を演技の師とみなしています。それまで彼女はレコード会社のプロダクション助手にすぎませんでしたから。彼女は絶え間なく、『徴婚啓事』に出たいと言っていました。そこで私は映画製作補助金の申請書に彼女の名前を書きました。彼女は合意のサイン(★9)をしました。でも実際は、私はもっと年上でもっと醜い女性を探していたので、「これは書類の体裁を整えるためだけのことで、もし申請が受理されても君を起用するつもりはない」と伝えていました。彼女は、もし映画がそう要求するのであれば、もっと年上でもっと醜くなれると言いましたけど。

―――彼女がこの役をやりたかったのは、ストーリーが気に入ったからですか。

陳:前にも言ったように、撮影では脚本は使わなかったのですが、事前に大体の脚本は書きました。とてもうまく構成されたコメディーだったのです。私のすべての映画の中で、もっともしっかりした構成だったと思います。スペインのアルモドバル監督のような複雑な構成でした。笑ったり泣いたりで、ハッピーエンドを迎える。ちょっとブラックコメディーでした。彼女はこれが気に入ったのです。彼女はずっと私の撮ろうとしている映画はこの脚本を元にしているのだと思っていました。6ヵ月後、私は「構想が変わった」と彼女に言って、もっと彼女にふさわしくないと伝えました。それでもなお、彼女がこの役をやりたがったのは、非常にプロフェッショナルな理由からです。彼女にとってこれは良いプロジェクトでした。この映画の最初から最後まで彼女が中心だし。真面目な女優であれば誰でもこの種のプロジェクトに参加したがると思います。へりくだっているわけではありませんが、この映画が失敗に終わる可能性もあります。ただ女優にとっては、どちらにせよ興味あるプロジェクトだと思うんです。

―――彼女のバックには事務所がついています。事務所側は、この最終的な企画内容をどう考えていたのでしょうか。

陳:シルビア・チャン(★10)ですね。彼女の事務所も良いプロジェクトだと考えています。それでも、事務所は一定の額の金とさまざまな権利保護を要求します。でもこれが普通です。標準的な手続きです。

―――メイクなしの撮影については、事務所は嫌がりませんでしたか。

陳:それはそんなに問題にはなりませんでした。劉若英は、基本的には台湾の女優です。どんな台湾女優も本当の意味でスーパースターではないんです。香港とは違います。劉若英にしても『宝島』のターシー・スーにしても、彼女らは変わったアーティストなんです。香港の方が高額の報酬と名声を意味していても台湾の映画に出たがります。彼女らは台湾製作の作品だけに関心があるようです。

―――その理由は分かりますか。

陳:彼女らはこの台湾という環境にある種アイデンティティーを感じているのでしょう。また、金や名声は二の次なのでしょう。彼女らには実際のところ海外から多くのオファーもあります。リチャード・ギア主演の、部分的に中国で撮影された『レッド・コーナー』でも、劉若英を使いたがっていました。スクリーン・テストもやって、彼らは感銘を受けたみたいです。でも、脚本を読み、役柄があまり良くないということで出なかったようです。キャリアを考える上では報酬も高くパブリシティーの効果もあり、良いチャンスなのですが。彼女には『007』シリーズ最新作でも、スクリーン・テストの話がありました。私はスクリーン・テストの台本も見ましたから。ただ、『007』シリーズなので、初めから興味がなかったようです。プロの役者なら、何にでもチャレンジする必要はあります。でもこの場合、香港のミシェール・キングの方がいずれにせよふさわしかったでしょう。ミシェールはカンフーも出来るし列車の中で走り回ることもできる。テーブルの下に銃を持っているような女性スパイという役柄ですから、劉若英は、そんなに素晴らしくはならなかったでしょう。将来は分かりませんが、少なくとも今のところは。

 

彼らは何を撮っているか理解したことはない

 

―――『徴婚啓事』の英語タイトルはどうされる予定ですか。

陳:中国語タイトルをそのまま英訳すれば、"personal"ということになりますが。私はあまり英語タイトルに注意を払っていないので分かりません。現在では、すべての台湾映画が国際市場を念頭に作られています。これは私にとってはとてもおかしなことです。なぜなら私は、私のような人間や周囲の人々のために映画を撮るからです。ただ、外国人が興味を持ってくれるのは良いことです。でも私には、それほど重要なことには思

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION