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ないですか。プロは演技をしてしまうから。

陳:もちろん。しかし、私がプロの俳優から引き出したいものは、彼らが自分をどう見ているかということではなく、私が彼らをどう見ているか、あるいは彼らが自身のために創造した役割でした。これを私はまず最初に決めていました。例えば、金士傑ですが、私は彼が独身だと知っています。彼は、とても結婚したがっています。彼は完璧な花嫁が見つからないという問題を抱えています。ですから、私は彼のこの問題を掘り下げました。彼の役どころは、とても惨めな独身男です。私は金士傑のために役を創ることはしませんでした。ただ、私はこの役者にプレッシャーをかけたのです。彼は、最初は自分自身をさらけ出すことに抵抗します。とても困惑するからです。個人的なプライベートな生活にかかわるからです。そして、俳優にとって自分自身を演じることは習慣になっていないからです。ですから、俳優を演出するのは、最初は難しかったです。いつも成功していたとは言えません。成功していない場合も、編集の時に私はそれを修正するよう努力します。私は、たくさんの素材を撮っていますから。

 

私は何かを遂行しているというより、発明したり、待機していたり、事前の計画を変更したりしていた

 

―――予想上映時間と実際に撮影したフィルムの長さの比率はどれくらい…?

陳:上映時間は標準です。しかしフィート数はかなり。完成作品の25倍くらいかもしれません。そのほとんどは、無駄になりました。私はどういう方向に行くか分からなかったので。それに時々役者は演技に恍惚となりますから。「アクション!」と言ったとたんにね。ですから私はカチンコなしで、撮影しました。「カット!(終了)」と言った後でも、撮影を続けたりしました。実際、撮影したフィルムでは、スクリプターが走ってきてカチンコを鳴らしている様子が写っていたりします。カチンコは、ある種恐ろしいものです。いくら気をつけていても、役者にとっては恐ろしいものです。常に考えている自分を発見する、私の職業人生の中で初めての経験でした。私は何かを遂行しているというより、発明したり、待機していたり、事前の計画を変更したりしていたのです。

―――劉若英は、ほとんどメイクをしていませんね。

陳:ほとんどメイクなしです。私は彼女の顔に傷を付けたかった。このスチルを見てください。これは彼女の本物の傷です。彼女の過去の映画では、これを撮らないようにしてきました。彼女が子供の時、犬に噛まれた傷です。眉毛の上から頬まで、それとわかる傷があるのです。

―――彼女がメイクをしていないのは、あなたのアイデアですか、それとも彼女のですか。

陳:私のアイデアです。私以外は皆反対しました。カメラマンも反対しました。彼はこのアイデアはひどいと思ったようです。

―――劉若英にこのアイデアを伝えた時、彼女はどう反応しましたか。

陳:まず、先ほど言ったように彼女はこの役が欲しかったので、私のやりたいことを何でもすると約束してくれていました。そこで私は彼女に「あなたの傷を見せたいが、良いか」と聞いたわけです。5秒位彼女は黙っていました。そして「良いわ」と言いました。もしここで断れば私が彼女を使わない理由ができるということが彼女には分かっていました。

―――なぜ彼女の傷を見せたかったのですか。

陳:おそらく、彼女がこの役にふさわしくないという私の誤った判断の、埋め合わせだったのだろう。私は何か心理的な償いが欲しかった。彼女はあまりにも若く、あまりにも有名な歌手だ。でも私のこの映画ではスターとしての劉若英ではなく、私の身近な場所にいて気取りのいらないダチである劉若英として出てほしかった。劉若英がメイクをすることは、彼女の本当の姿ではない。一般の観客に見せたくなかったものを積極的に見

 

 

 

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