李安
アン・リー
監督
1954年台北生まれ。75年国立芸専卒業。8mm作品『星期六下午的懶散』(76)『陳媽勤的一天』(78)を発表し、兵役の後、78年に渡米。イリノイ大学演劇科を2年間で修了し、80年ニューヨーク大学(NYU)映画学科へ進む。16mm作品『The Runner 追打』(80)『I Love Chinese Food 我愛中国菜』(81)『Best The Artist 棒芸術家』(81)を経て、『I Wish I Was That Dim Lake 蔭涼湖畔』(82)でNYU奨学金と金穂奬(台湾政府主催の自主映画コンクール)最優秀短編劇映画賞を得る。続いて卒業作『Fine Line 分界線』(84)がNYU学生映画祭グランプリ並びに最優秀監督賞となる。卒業後もアメリカに留まり、映画製作を目指して企画を練り続け、90年に脚本『推手』が台湾政府の脚本コンクールで入選し助成金を獲得。翌年『推手』(91)により35mm劇映画の監督としてデビューを果たす。93年に第2作『ウェディング・バンケット』がベルリン映画祭グランプリに輝き、一躍世界の檜舞台にのぼった。第3作『恋人たちの食卓』(94)も評価が高く、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートとなる。そしてハリウッドのオファーに応えた『いつか晴れた日に』(95)では、ベルリン映画祭グランプリ受賞、ゴールデングローブ賞の作品賞と脚本賞の受賞したほか、米アカデミー賞主要各部門ノミネート及び脚色賞受賞といった快挙を成し遂げ、国際的な評価を確立した。
解説
アジアとアメリカに拠点をおき、アメリカに生きる中国人の姿を描いた、李安監督のデビュー作。主演の郎雄は、本作に続いて『ウェディング・バンケット』(93)、『恋人たちの食卓』(94)と李安監督の“父親三部作”に主演している。推手とは二人で行う太極拳の組み手の模擬練習のことである。自分を無にし相手の心の声を聞きながらバランスをとって闘うさまが、中国人の多くの人生哲学を象徴しており、それはアメリカという異郷でコミュニケーションがとれずにいる主人公の姿と重なっていく。異なった価値観の対立を越えて調和を見出していくというテーマは、二つの文化に身を置き下積み生活を送ってきた李安監督の体験が色濃く反映している。思いやりを持ちつつ頑固で威厳を失わずに生きる主人公の姿は、小津映画における笠智衆を思わせもする。
物語
中国を出国した朱老人は、ニューヨークに住む息子アレックスの家に居候している。アレックスの妻で作家志望のマーサは、朱老人とは言葉も通じず食事もバラバラで、一日中家で過ごす彼とは気まずい雰囲気がつのっていく。やがてマーサはストレスで胃を壊して入院までしてしまう。一方朱老人は、中国人コミュニティで太極拳の講師をつとめていたが、中国料理を教えている老夫婦の陳と知り合い、中国人コミュニティにしか居場所を見つけられない境遇に共感しあう。息子夫婦の間も次第にギグシャクしてくる。朱老人は散歩に出たまま道に迷い、深夜になって警察に保護されることもあった。アレックスは父を老人用のアパートに入れることも考えたが、朱老人は行き先も告げずに家を去る。中華街で皿洗いをして働くが、理不尽な経営者と衝突し、彼を追い出そうとしたヤクザや取り押さえようとした警官と大立回りの騒ぎを起こす。そしてアレックス夫妻は…。
(門間)
スタッフ
製作 : 徐立功 シュー・リーコン
監督 : 李安 アン・リー
脚本 : 李安 アン・リー
撮影 : 林良忠
音楽 : 徐大安
編集 : 李安 アン・リー
キャスト
朱老人 : 郎雄 ラン・ション
陳婦人 : 王菜 ワン・ライ
アレックス : 王博昭 ワン・ボーズ
マーサ : デーブ・スナイダー
ジェレミー : 李涵 ハーン・リー
第28回金馬奬最優秀主演男優賞 (郎雄)
最優秀主演男優賞 (王菜)
1992年アジア太平洋映画祭最優秀作品賞